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6.Hide and Seek

片やショウを見つけるかくれんぼ。片や赤警から逃げる鬼ごっこ。


 最近分かったことだけど、この美術館には、アイリスのように閉館後も残されたままの物が少なくない。もっとも、ロボットやアンドロイドのような革新的な展示物はアイリスだけになってしまっているものの、芸術作品──特に大きくて設置には場所をとるものは、ほとんどが忘れ去られている。


 この美術館は一階と地下の二層構造でできていて、一階には中央に広めのホールがあり、乗用車なら優に20台は入るほどの面積だ。さらに、天井は5m以上の高さに設定されている。おそらく、大きな作品であっても十分に展示するためだったのだろう。


 一度探索に入ったことがあるけど、人が立つための印が刻まれた半径5mほどのオルゴールや、天井からぶら下がった液晶パネルで作られた巨大な地球儀、造花であふれかえったビニールプール、実寸大と思われるイルカの電子模型の群れ……など、営業当時のままと思われる状態で放置されていた。


「まず一階を探そう。この事務所は北側の隅で、中央のホールへの入り口は南側2枚のドアだけ。ホールは廊下で囲まれていて、赤警はきっと、勝手口から僕らの痕跡を追って反時計回りに探してくるだろうから、ここを出たらすぐ角を曲がって進もう」


 白河さんは何も言わずに頷く。一応は信用してくれるみたいだ。


 僕らはそっと事務所の扉を開け、廊下の様子を伺う。赤警は途中の小部屋を一つずつ確認しているみたいで、まだ近くまでは来ていない。


「大丈夫。行こう」


 音を立てないように、廊下を進む。幸いなことに、通路にはほとんど物がなく、小物を展示していたであろう長机だけだ。


「……僕はこっちを調べるよ」


 東側通路にはトイレがあるだけで、展示室はない。さすがに二人で一緒にトイレを調べるのは気が引けるので、別々に調べることにした。


「こっちにはいませんでした」


 トイレの前で合流し、小声で囁く彼女に僕も頷き返して、ホールに入るため南側へと向かおうとしたそのとき──




「ワンッ!」




 鳴き声がした。


「ショウの声!今のは……地下?!」


 僕らは南側正面玄関横にある階段へと駆け出した。後方から、ダン、ダン、と、さっきよりも力強く速い足音が聞こえてくる。


「白河さん!地下は暗幕のカーテンで仕切られた迷路のようになっています!きっと、ショウ君はその奥です!」


 螺旋階段を転がり落ちるように下りながら彼女に伝えた。


 確信はないけど、自信はあった。元・市立美術館の地下、人間がちょうど2人通れるくらいの幅に作られた迷路のその最奥にいる、僕の知人に、ショウ君は反応してしまったに違いない。


「僕についてきてください」


 足元の非常灯を頼りに迷路を進む。走るのはやめ、息を整えながら、転ばないようにゆっくりと歩いている。道順は大丈夫。ここにはもう何度も来ているのだから。耳を澄ましてみた。どうしたんだろう、赤警が階段を下りてくる気配はない。


(あきらめた……のかな?)


「あの……あさ、ぎりさん?は、どうしてここに?」


 同じく、赤警が来ていないことに安心した彼女が聞いてくる。


「……すぐに分かりますよ。この先に行けば」


 それ以上聞いてくることはなく、再び無言で迷路を行く。もう少しでゴールだ。


 最後の角を曲がると、学校の教室ほどの広さの空間の、ちょうど中央に、壁掛けのスポットライトにぼんやりと照らされた彼女と、一匹の犬がいた。


「ショウ!」


 白河さんが駆け寄る。どうしたわけか、ショウ君が興奮している素振りはもうない。ただ静かに抱えられ、彼女に身体をゆだねている。


「ナギ、あなたにもこんな可愛い友達がいたんですね」


 アイリスは言う。僕は「そうだね」と、安堵のため息交じりに返した。


 白河さんも緊張の糸が切れたのだろう。目を潤わせながら、ショウ君を撫でていた。




「ありがとうございます。朝霧さんのおかげで、無事ショウを見つけることができました」

「いえ、そんな……たまたまここによく来ていただけです」


 ショウ君を抱きかかえたまま立ち上がって白河さんにお礼を言われ、照れくさくなった。走って乱れた髪と、潤んだ瞳のせいでどこか色っぽく、彼女を直視できずにいる。


「それにしても、この女性(ひと)、なんというか……ファンキーな見た目をしていますね」


 僕の緊張など露ほども気にしていない彼女は、アイリスへと近づいた。


「ありがとうございます。よろしければ、あなたとこの犬のデータを登録します。お名前をどうぞ」

「どういたしまして。私は──」


 自己紹介をする彼女を見ていた僕に、()()()()()()()()()()()が訪れた。


(なんだ……?また?いや違うこれは……)


 今僕の頭に流れてきた映像は、今このときのものじゃない。そう、まるで、別の時間の光景が流れ込んでくるような……。




 ドスン──ドスン──ドスン──




 後方から、階段を踏み抜きそうなほどの足音が聞こえてくる。


「どうやら、もう一人、お客さまがお見えですよ、ナギ」


 赤警だ。諦めたんじゃ無かったのか。


「しかし、こんなに人が集まるなんて、この美術館もまだまだ捨てたものじゃありませんね」


 アイリスは自虐的に、ふざけてみせた。



次回、vs赤警編決着?!


(決着しなくても許してください。執筆はノープランなので!!!!)

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