5.逃走と潜伏
ついにヒロインのお名前公開です!
「ワンッ!ワンッ!!」
二度目。さっきよりも強く感じる。僕は様子を見るために地上へと向かった。
(まさか……)
階段を一段飛ばしで駆け上がる。勝手口の扉を開けて、日の陰った薄暗い路地を見ると、昼に会ったお団子頭の女性が、体長30cmを超えるくらいのクリーム色の毛並みの犬をかばうように抱えてしゃがみ込んでいた。
「あなたは…!」
僕に気付いた女性は、一瞬、目を見開いて、そしてすぐに警戒の目つきに変わった。
「あの──」
僕が声をかけようとした瞬間。女性の抱えていた犬がするりと、身体を翻して、腕から抜け出してしまう。
「きゃッ……」
女性は短い悲鳴を上げて片腕をとっさに伸ばしたものの、しっぽを捕らえることはできず、その犬は僕の足元を潜り抜けて、さっきまで僕が立っていた、元・市立美術館の中に入ってしまった。
「待って!ショウ!……もう!」
女性はなかなかすぐに立ち上がれずにいたが、表通りの方で鳴った大型の電動バイクの駆動音に、ハッとした顔に変わり、僕の手を引きながら勝手口の中へと駆け込んだ。
「……」
無言の女性に引っ張られるがまま、一階の奥、美術館の事務所だったであろう部屋に入った。いかにも事務用の机が向かい合って列を成し、オフィスチェアーも残っている。更衣用のパーテーションの隣には、かつて着られていたであろうスタッフ用ジャケットが置き去りにされてある。僕は部屋の埃っぽさが少し気になった。
「あの……」
「すみません。とりあえず手伝ってもらえませんか?あの子……ショウを……守ってあげないと……!」
息をひそめながらも、眉間にしわを寄せながら肩で息をしている様子からは、余裕の無さが見受けられる。まだ手を離してはくれないようだ。
「いや……まずは状況を教えてくれませんか?あと、少し落ち着いたほうが……」
僕がそう言うと、ようやく女性は少し冷静さを取り戻したのか、目を閉じて深呼吸をし、ようやく僕の手をほどいた。
「ごめんなさい。私、白河瑞波って言います。あの子はショウ。チワワっていう種類の……犬です」
「僕は朝霧凪。……白河さん、昼間に会いましたよね。ほら、動物病院の前で」
「ええ……あの時も言ったかもしれませんが、あの子なんだか様子が変で……さっきも、病院からの帰り道で急にカバンの中で吠え始めちゃって……普段はそんなこと絶対にないのに……」
(なるほど、確かに人通りの多い道で犬が吠えていれば人目につく。それにしても、隠れるなんて大げさな気もするけど……)
「とにかく、探しましょうか。手分けをして、僕は地下を調べるから白河さんはこの階を──」
ガチャ。
勝手口のドアが開けられた音がした。そして、カツ、カツ、と重い靴音が、廊下に反響する。
僕と白河さんは目を合わせる。心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
「……実は、さっきショウが警備アンドロイドに襲いかかっちゃって……」
白河さんがさっきまでよりさらに小声で教えてくれる。
「ちなみに、色は?」
「……赤。01型の……」
最悪だ。警備アンドロイドには階級がある。最も低いランクは白で、一般家庭の玄関前なんかにもいることが多い。そこから、黄、青、緑、と位が上がるにつれて警戒度合いや危機管理レベルも上がり、より高性能になっていく。そしてその最高位に当たるのが赤。01型とは男性のモデルであることを意味する。
「どうしてまた『赤警』に……」
「なにやら、市の偉い人が、環境政策の取り組みの一環としてこの美術館の様子を見に来ていたみたいで……ってそれよりどうしましょう?!」
こうなってしまったら仕方がない。分担して探すのは危険だ。一緒に動く方がいい。
「僕は、ちょっとだけなんだけど、ここには詳しい。何とか赤警から逃げながらショウ君を探そう」
ノープランのままで、僕は彼女にそう言った。
次回!どうなる!2人はちゃんと逃げられるのか!
(執筆もノープランです!!!!)