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4.元・市立未来美術館

時間軸はもどります。


「……ということがあってさ」


 ここは、元・市立未来美術館。2030年の春、最先端の技術をテーマに、ロボットやアンドロイド、人工知能を題材にした展示を目的に建設された。


 当時は、先進的な技術躍進のレセプションに期待も大きく話題を呼んだものの、その勢いは長く続かなかった。全世界で爆発的に発展した技術は、街中や家庭にまで影響を与え、徐々に市民の目が慣れてしまった。


 来場者は徐々に減少し、どうにか来てくれる人を増やそうとしたのか、技術と芸術の混合作品の展示から、アート的な側面のみが肥大化した。その結果、昨年の冬、わずか2年と経たずに閉館となってしまったのだ。


「これで私が聞いた既視感は7回目。4月に2回、5月に4回、と一週間に1回のペースになっています。ナギの脳内での異常の多発は、沖縄での軽率で浅はかな愚行が原因と考えられます」


 僕が話しているのは、この美術館跡地にあるアンドロイド「AI-04 Iris」、通称アイリス。


(通称と言っても、ここに通っているのは今はもう僕だけなんだけど)


「アイリス、確かに僕が悪いんだけど、前からもお願いしているように、その言いぐさは何とかならないのかな」

「すみません。私は旧型のAIアンドロイドですので」


 たいして悪びれた素振りもなく、ニヤリと笑って彼女は言う。アイリスは、かつてこの美術館で展示されていたアンドロイドだ。対話を主な目的とした人工知能を持つように、ある芸術家によって創作された。アンドロイドと言っても、()()()()()()()()自立式のものではなく、コート掛けのような鉄の棒に上半身だけの身体が掛かっているような状態である。芸術家の趣味嗜好か、ブロンドに赤の混じったロングヘアーを耳の後ろの位置でツインテールにしており、真っ青な瞳の色とピンクの唇の、それでいて幼い顔立ちをしている。


「そういえば、アイリス。この美術館が潰れてから大体5ヶ月が経つけど、稼働のエネルギーは足りているの?」


 僕がアイリスに出会ったのは4月初旬のことだった。大学の新年度が始まる前日、急な吹雪に見舞われていた僕は、雨宿りならぬ雪宿りとして、たまたま通りかかったこの美術館の勝手口が、風にゆらゆらと、まるで僕を手招いているように動いていたので、何の気なしに入ってしまったのだった。


 訝しく慎重にもトイレを探しながら、まだ汚れの目立たない階段を降りたところ、通路から一つの部屋の中が窺えた。そこに、忘れられたままのアンドロイド、「AI-04 Iris」がいたのだ。


 戸惑う僕に、「初めまして、私はアイリス。こんなところに迷子のお子さまがいらっしゃるなんて、珍しいこともあるものですね」と、語りかけてきた。それが、僕とアイリスの出会いだった。




「私の稼働電力は、背中から伸びるコードを通して得られています。そしてそのコードは地下に繋がっており、地下鉄が走ることによって生まれる風の流れをもとに発電されるものを拾っています。これは私の創造者である方の、エコでサステナブルなアイデアです」

「そうなんだ。でも、その創造者はどうしてアイリスを……いや、なんでもない」


 どうして回収しなかったんだろう──と聞きかけて、やめた。仮にもアイリスにとっては親とも呼べる人が来なかった。それはきっと、捨てられた、ということなのではないかと頭をよぎったから。


「死んだそうです」

「え?」


 頓狂な声を上げる僕。


「私をつくっている途中で死んでしまったようです。なので、ほら、この通りの身体なのです」


 と言い、両腕を広げ腰より下をアピールする。いつもは人間のそれと違わぬ機械の目が、なぜか、冷たい無機物そのものに見えてしまう。


「ごめん……わざわざ聞かなくてもよかったことを聞いてしまって」

「ナギのそういうところ、私は気に入っていますよ」

「そう言ってもらえると、嬉しいよ。ありがとう」


 自分で言ったその言葉に、ふと、まるで今日のあの女性(ひと)みたいだ……。そう思ったそのとき──




「……ワンッ!」




 鋭い吠え声が、外から、響いた。


 反響するように薄暗い室内の空気がわずかに揺れる。


 僕は反射的にアイリスの方を見た。


 けれど、彼女の瞳は、ただ静かに、こちらを見返しているだけだった。




さあ!どんどん物語が動きはじめます!

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