イスタロテ
「……またですか」
俺やリーネットが首を傾げている中、エルネスタは呆れたようにため息を吐く。
その仕草すら色っぽく感じるが、そんなことを考えている雰囲気ではなさそうだ。
エルネスタは立ち上がると、セラフィーネに向けて
「客人にこんなことを頼むのは間違っているのですが……もしもの時はご助力いただけますか?」と告げる。
「もちろんだ。あなた達がどのような思想であろうと、ここはリュミナリオス王国の、つまりマリエル様の支配下。私が戦わない理由はない」
力強く、当然だと言い放つセラフィーネに、エルネスタは安心したと胸を撫で下ろす。
「それでは……バージル様とリーネット様はここでお待ちください」
「いえ、俺も行きます」
「それはできません。イスタロテ派の方々は気性が荒く、男性は何をされてしまうか……私の想像力では足りないほどなのです」
「――だとすればバージルの出番だろう」
俺に対する助け舟だったが、この世界に生きる住人にとっては意味の通らないものなのだ。
エルネスタは「え?」と戸惑いの色を浮かべた。
「バージルは私よりも強い。どんな相手だろうと負けはしないさ」
「そうです! バージルさんは私を抱えて走り回れるんですからっ!」
誇らしげな二人に、俺は少し照れてしまう。
「でしたら……バージル様も共についてきていただけますか?」
「もちろんです」
俺たちは互いに頷きあうと、祈祷の間を飛び出して礼拝堂の入り口へと向かった。
礼拝堂へと入る視点は数日前に体験したが、出る視点はこの瞬間が初めてだ。
長い階段を登ってたどり着くだけあって、こちらからの景色は壮観というほかない。
しかし、今はその景色を堪能することできない。
雲ひとつない青空を隠すかのように、数十人という規模の来客があったからだ。
「おや、ようやく聖女様のお出ましだ」
エルネスタを先頭に礼拝堂の扉を出ると、イスタロテ派と呼ばれていた一派の最善に立つ女性が言った。
「……イスタロテ」
「エルネスタ様、と呼んだ方がよかったかな?」
「元は同じ志を持っていたのです。呼び方など好きにしてください」
緑色の髪にスレンダーな身体付きの女性――イスタロテは鼻を鳴らす。
なるほど。この場にいる者は全員がメルン教の信者だったが、脱退した者もいる。
そして、イスタロテを筆頭に抜けたから「イスタロテ派」と呼ばれるようになったわけか。
だが、いかにもな聖職者服を身に纏うエルネスタ達と違い、イスタロテ達は身体のラインが出たボディスーツのようなものを着ている。
あまりにも方向性が変わってしまっているのだが、一体何を信奉しているのか。
「お前達はここに何のようがあってきた?」
「……ほう? あんたは騎士団長様だったよな」
煮え切らない展開に痺れを切らしたセラフィーネに対し、イスタロテはあくまで冷静。
「勧誘だよ」
「……勧誘?」
「あぁ、エルネスタを私たちの教義に引き込む。いや、引き摺り込むのさ」
「そのためにわざわざ、こんなにも大人数でやってくるのか。体力作りでも兼ねているのか?」
おそらく、この騎士団長様は本気で疑問に思っているのだろうが、思考が脳筋すぎる。
「今回は今までとは訳が違う。対話ではなく拐いにきたんだよ。エルネスタなら確実にハマる。その確信がある」
「……おかしな口ぶりだな。お前達の教義とはなんなんだ?」
俺も同じことを思っていた。
イスタロテの言う「ハマる」は宗教に使う言葉には思えない。
彼女はニヤリと笑う。
「知っているか? 近頃、とてつもない強さの男が現れたらしい」
「それがどうした」
「ついに私の考えに世界が追いついたのだと思ったよ。強い男、素晴らしいじゃないか」
既に知っていたであろうエルネスタ以外、この場のほとんどの人間が面食らっていた。
派閥は違えど聖職者から出る言葉ではないからだ。
しかし、その驚きは次の瞬間に更新されることになる。
「――男根崇拝ッ! これこそが我々の求める一本筋の通った信仰!」
「だ、男根崇拝だと!?」
「そうさ! メルンなんていう存在するかも分からない神を信じて何になる!? そうじゃない、私たち女は男根によって生まれ、男根によって孕む! これが世の摂理なんだよ!」
正確には違うとも言えるが、完全に的外れとも言えない。
「我々が信仰するのは男! 男を育て上げ、最強の男根を作り上げるッ! そうして全員が平等に孕み、子を産み、幸せになるのさ!」
「…………はぁ」
てっきりイスタロテは過激派……ではあるんだろうが、もっと危ない組織かと思っていた。
しかし、実物はなんていうか、なんていうかだ。
エルネスタなんて恥ずかしそうに俯いている。
「勝手にすれば……良いんじゃないか?」
セラフィーネのもっともなツッコミ。
だが、イスタロテはかぶりを振る。
「残念だが、私の目的は簡単に遂げられるものじゃない。特に――エルネスタがいなければ」
「私が必要とは……どういう?」
エルネスタは教義までは知っていたようだが、なぜ自分を勧誘しにくるのか、詳しくは教えられていなかったようだ。
一方で、自分の手の内を明かすのが得策ではないと理解しているようなイスタロテは、開示しようともしない。
ただ彼女が一歩後ろに下がると、無駄に無駄のない動きで両側から信者が出てきた。
「これより私たちは――エルネスタを連れて行く」
ハジけるくらいがちょうど良い。
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