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女性恐怖症を克服したおっさん、修行明けに貞操逆転異世界にブチ込まれる  作者: 歩く魚
女王/聖女

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謁見3


「示す……ですか?」


 彼女が俺を試したいと思うのは納得だし、最もだと思う。

 だが、いったい何をすれば認めてもらえるのだろうか。


「なに、言いたいことは分かる。……あれを」


 子供と言われても違和感のない容姿だが、さすが一国を手中に収める女王。

 俺の考えなどお見通しのようで、控えていたクラリスが無言で頷き、玉座のすぐそばに据えられた机から一枚の羊皮紙を手に取った。

 そして――なんだか格式高そうな印が刻まれた――それを俺の前まで運び、片膝をついた姿勢で差し出す。


「これは……?」


 手に取ると、見慣れない言葉が並んでいた。

 しかし、おそらく宗教に関するものだというのは……ギリギリ理解できる。多分、合っているはず。


「聖女エルネスタ。彼女のもとに赴き、彼女が本当に神の声を受けているのか、それを見極めよ」


 彼女は立ち上がることはせず、玉座に腰掛けたまま、だが威厳そのままに続ける。


「ここ数ヶ月、聖女に与えられる神託が奇妙に歪んでいる。ある時は戦争を予見し、またある時は民に断食を命じ、あるいは王座の崩壊すら口にした。だが……」

「その予言は、外れている?」

「いや、当たる。部分的にだが――的中していることも多い。だからこそ、混乱を生む」


 マリエルの表情には、ほんのわずかな緊張が滲んでいた。

 それはそうだ。自分の立場が危ういと言われているのだから。


「予言が全て真実か、全て虚偽かであれば、処置は簡単だ。だが今の聖女は、まるで複数の声を聞いているような状態。教会は口を閉ざし、民衆は恐れながらも彼女にすがっている。……妾としては、放置するわけにはいかぬ」


 ここに来る前にセラフィーネが「リュミナリオスの城、街、軍、法。全てが彼女の手で整えられたものだ」と言っていた。

 その中に宗教は入っていない。

 つまり、この領域だけは先代からのものであり、あるいは王権に匹敵する指導者が存在するのだろう。

 王が宗教に深入りすれば、むしろ玉座が揺らぐ可能性がある――そんな話を、俺もかつての世界で学んだ記憶がある。


「……それだけではない」


 マリエルの眉が、ほんのわずかに動く。


「彼女は異常なまでに神気を蓄積している。感情の起伏が激しく、意識が断絶する時間が増えているという。だが、彼女は『問題ない』と答え、礼拝堂の者たちも神聖のかげりを恐れて口を閉ざす」

「その異常の調査も?」

「そうだ」


 マリエルは、手にしていた書簡をクラリスに預けながら続けた。


「表向きは、王命による神聖補佐役の視察だ」

「男の俺が……問題にならないですか?」

「だからこそ、だ。お前は信仰に染まっていない。セラフィーネの報告が事実なら、規格外の男らしい。神託にすがることも、恐れることもない。男であること以上に、何にも縛られぬ存在」


 その言葉に、俺はしばらく黙った。

 横でうんうん頷いているセラフィーネ、過大評価しすぎである。

 しかし――。


「……わかりました。俺にできる限りのことをします」


 そう返すと、マリエルはほんの僅かに、満足そうに頷いた。

 

「うむ。よい返答だ」


 そのとき、セラフィーネが一歩前へ出て膝をついた。


「陛下。もし許されるなら、私もバージルと同行させていただけますか?」

「……よかろう。妾がそなたに同行させる理由は、二つある」


 彼女はそう前置きして、ゆっくりと言葉を継いだ。


「一つ、バージルの安全を守るため。一つ、聖女の本質を見抜くために、妾の信頼する騎士の眼を必要とするからだ」


 そして最後に、ちらりとこちらを見た。


「……それに、そなた自身が、見たいと願っているのではないか?」


 セラフィーネは、少しだけ目を見開き、頷いた。


「……はい!」


 続いて、マリエルは後方のリーネットに視点を定める。


「……共に行ってくれぬだろうか?」


 突然の指名に、リーネットはびくっと小さく肩を震わせる。

 だが、マリエルの声は意外なほど柔らかだった。


「バージルを守り抜いた慧眼。そして、騎士相手にも退かぬ胆力。そなたのような者こそ、必要になると妾は思っている」


 その言葉に、リーネットは戸惑いながらも顔を上げた。


「わ、私……本当に、そんな大それた役目に……」

「確か、都市案内人だったな? これより貴様を王直属の随行調査補佐へと、任を引き上げる。つまり、俸給を――」

「――やります!」


 俺とセラフィーネは、あまりの切り替えの早さに、一瞬目を見合わせてしまう。


「は、早い」

「即決すぎて、逆に気持ちがいいな」


 セラフィーネがくすりと笑いながら呟いたその横で、リーネットは自分の口から飛び出した言葉に気づいて顔を真っ赤にしていた。


「え、あ、ちが、いや違わなくないですけどでも、ちゃんと責任は果たしますから……っ!」


 マリエルすら、リーネットの様子を見てわずかに唇を緩めた。

 

「ふふ……賢明な判断だ」


 女王のその一言が、正式な任命よりも何倍も嬉しかったのか――リーネットは顔を伏せたまま、ぺこりと深く頭を下げた。


「必ず……お役に立ってみせます!」


 かくして、俺たちは聖女エルネスタに会いにいくことになった。

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