疼き
私の故郷は、幼い頃に賊に襲われた。
唐突に、突然に。
我が物顔でやってきた下賤の輩は、言葉も礼もなく、ただ欲望のままにすべてを壊した。
物や金だけなら――と、何度も思った。
けれど、奴らは命までも奪っていった。
友人の悲鳴。母の泣き声。
そして、生まれてくるはずだった妹の未来まで。
なぜ私だけ生き残ったのか。その答えは、今も分からない。
神の気まぐれ? 運命? 冗談じゃない。
理由なんてなかった。ただ、生き延びてしまったのだ。
焼けた土の匂いと、鉄の味の中で、私は――何も持たずに、私は逃げた。
騎士団の見習いとして訓練するようになって、私の心は強くなった。
訓練は過酷で、痛みは日常で、涙を見せる者は侮られた。
痛みに耐えるのは容易ではない。
私以外の者は、皆顔を歪める。
でも、それが私には心地よかった。
痛みを感じていれば、生きている実感があった。
誰かを殴って勝てば、自分の存在が肯定された気がした。
団のためでも、友でも、誰でもいい。
誰かのために剣を振るうことで、私の生きた意味が手に入る気がした。
少しずつ勝てるようになった。
模擬戦で負けるたび、私は喰らいつき、勝てるように工夫し、執念で食らいついた。
そして気づけば、私より強い者はいなくなっていた。
――これで、ようやく復讐が果たせる。そう信じていた。
けれど、私の故郷を襲った賊は、とうに壊滅していた。
関係のない勢力の抗争に巻き込まれて、組織ごと吹き飛んだらしい。
仇は消えた。私の剣は空を切った。
……そのとき、私は初めて立ち止まった。
私が剣を振るう理由が、生きる意味がなくなった。
目の前に敵がいない。
守るべきものも、失われたまま。
私には――何もなかった。
それでも剣は、手放せなかった。
――私の生きる意味は? どうして生かされた?
それが分からないから、必死に剣を振った。
もっと強くなれば、何か見つかるかもしれない。
もっと強くなれば、何も見つからなかったとしても、遺せるかもしれない。
そんな時、目の前に現れたのが――バージルだった。
男は嫌いだ。力は弱いし、逃げることしかできない。
そのくせ、その男の軟弱な遺伝子を取り込まなければ、子供を産むことができない。
努力の価値も知らない男と交わることは、私にとって、奪われるのと同じくらいの苦痛だと感じた。
だが、あの男は、あの日――私に正面から言い返してきた。
『その考え方は間違ってます。男でも女でも、弛まぬ鍛錬の先に得られるものがある』
静かな、だが、確信に満ちた言葉だった。
誰かの言葉を借りただけの、空虚な理想論じゃない。
浮ついていない。揺らいでいない。まるで、刃のように研ぎ澄まされた意志だった。
私は――私は、不覚にも、胸が高鳴ってしまった。
男が、それも、私より強く見える男が。
あろうことか、真正面から、私に言い返してきたのだ。
『……努力は誰の前にも平等です。あなたのような強い人に、それが分からないわけがないでしょう?』
その男は、私を認めていた。
私を「強い存在」として。
そして、自らもまた「努力によって強さを得た者」だと、臆することなく言い切った。
……私は、負けた。
剣を交えたその一戦で、私はバージルに、完全に敗北した。
確かに油断していた。
男など、ただ守られる側にすぎないと侮っていた。
だが――それでも負けは負けだ。
技でも、意志でも、私は打ち砕かれた。
鎧が破壊された時、私は自分の常識が破壊されたのを理解した。
拾い集めようとした。必死に、心の破片を。
でももう、繋ぎ直すことはできなかった。
私は――壊されたのだ。バージルに。
こんな感情は、認められない。
恥ずかしい。悔しい。誇りを砕かれたはずなのに――なのに、どうして。
――どうして、こんなにも嬉しい?
言いようのない気持ちが、一度に押し寄せてきて、私は何も言えなかった。
だから、逃げた。去るしかなかった。
リーネットとの交渉は――後から思ったが――我ながら上手くいった。
正直、自分でも何をしているかわからなかった。
ただ――ただ、彼ともう一度関わりたかったのだと思う。
近くで見ていたかった。話したかった。
彼が何を考え、何を選ぶのか。それを知りたかった。
彼に何かを指摘されるたびに、私の胸は強く疼いた。
それが、たまらなく心地良かった。
あんな日々が来るなんて、思ってもみなかった。
――良い毎日だった。
ただ、一緒に寝るのは止めておけばよかった。
毎朝、何時間も剣を振って雑念を振り払わなければ、彼を襲ってしまいそうだった。
これまで、男を嫌悪してきた私が、堅物と言われたことも一度や二度じゃない私が、自分から男を襲うなど――できるわけがない。




