牙4
「あたしらは男を手に入れる。そのために――死ね」
もはや命運尽きたと、セラフィーネは理解していた。
しかし、決して目を閉じることはしない。
自分を長だと認めてくれた団員たち、リュミナリオス女王、そして――バージルとリーネット。
その信頼に、目を瞑るわけにはいかない。
死ぬとしても、最期まで目を見開き、相手を睨みつけてやる。
それを実行していたセラフィーネでさえも、次の瞬間、目の前で何が起こったのか理解できていなかった。
黒い影が目前を通り過ぎ――否、振り下ろされ、巨大な火球が瞬く間に霧散した。
火花のような残滓が舞うその中心に、一本の大剣が地を裂いて突き刺さっている。
「……遅れて、すみません」
夜気を切って現れたその声に、セラフィーネの目が見開かれる。
そこに立っていたのは、息を切らしながらも剣を構えたバージルだった。
「どうして……ここは、私一人で――お前は逃げるべきだったんだ!」
「放っておけるわけないでしょう!」
言い切るその声に、セラフィーネの言葉が詰まる。
かつての自分なら、それを「愚か」と切り捨てたはずだ。
だが、今の彼女は少しだけ頬を染めて――。
「そうか……バージル、お前はそうだよな。ならば仕方ない」
と漏らす。
「リーネットは無事か?」
「近くにいます。盗賊は騎士団の方と戦ってるみたいですし、大丈夫なはず」
バージルはセラフィーネの肩を掴み、一息に引き抜く。
傷を負っていた彼女は一度だけ呻き、その後、小さく笑った。
「……痛みに耐えるのは簡単なことではないな。団長として、弱い所を見せるわけにはいかないというのに」
バージルは「分かります」と返し、相手――ルメリアを睨みつける。
それに対して、ルメリアは驚きで目を見開いていた。
もしかすると、それは驚きではなく、見惚れていたのかもしれない。
だからこそ、セラフィーネが戦線に復帰する隙を見逃してしまった。
「……団員がやられるだけのことはある。こんなの、こんなの……」
ルメリアは狂気的で、快楽的な笑みを浮かべる。
「魔道具よりも国よりも価値がある――最ッッッッ高じゃないか!」
その口から出るのは言葉ではなく、絶叫のようだった。
「は、ははは! 決めた、お前を手に入れる。全部壊して、お前が私しか見えなくなるまで叩きのめしてやる。そうした後、犯す。朝も夜も、ずっとだ!」
興奮故に酸素不足を招いたのか、ルメリアはフラつきながら、なおも夢見心地で呟く。
「……子供を何人も産んで、一番強い子に灰の牙を継がせよう。あぁ、それがいい。それで私はこいつと隠居生活を……」
彼女は手元の魔道具を弄びながら、そんなことを言う。
だが、バージルは怯まない。
「その未来は叶わない」
ぴくり。
ルメリアの眉が上がる?
「――どうしてだ?」
「あなたはここで俺に……俺とセラフィーネさんに負けるからだ。それに、罪のない人を傷つける女性は好みじゃない。そんな人に、俺の心も身体も渡さない」
その静かな言葉に、ルメリアの纏う空気が再び刺々しくなる。
まるで、心の奥底に棲む何かが、刺激されたかのように。
「……そうか、そうか。なら、お前からは希望を奪ってやる」
バージルはゆっくりと大剣を構え直す。
その背後に、セラフィーネの声が響いた。
「バージル。少しだけ、頼ってもいいか?」
セラフィーネがゆっくりと立ち上がってくる。
血で濡れた肩を押さえながら、それでも背筋は伸びていた。
「……まだ、認めたわけじゃない。だが、今だけは…………頼む」
バージルは、笑った。
「了解です、団長」




