b-3冒険の始まり
書きたいもんから書く、大事
ツノウサギに勝ってから2時間ほどが経過していたころ、和樹は街に戻り、新異世界人として登録をし、改めて狩りをしているところであった。
「10匹目!たっせーーー!」
冒険者登録も手早く済ましたことで、和樹は低ランクの依頼を受けていた。内容はご存知初見殺しウサギの討伐依頼である。討伐証明用のドロップアイテム、ウサギの左耳を10回剥ぎ取り、ようやく依頼達成というやつである。さすがに2度目以降の戦闘では知恵を使い、ウサギとの戦闘を容易に終わらせていく。
実は初狩りツノウサギはその圧倒的な格闘センス、索敵能力は確かなものの、あまりにも高い殺意のせいで、冷静に相手をみることが出来ず、少しでも''隙''があると判断すると、一直線に爆速で急所に突っ込んでくるのだ。
であるならば、対処法は幾つかある。
例えば、武器を弾かれる時に自ら武器を投げ捨て、突進にバックステップを合わせ、腰に差しているサイドウェポンでカウンターを合わせる。
この場合は、安定を取ってあえて木の盾を貫かせ、行動制限を設けて改めて仕留めてもいい、だが、いかんせん盾が消耗品となることは好ましくない。
他にも、罠を張って突進させ、網に捕らえるなり、ウサギにヒモを踏ませて突進させ、木片や大きめの石を引っ掛けて処理するなり。
何にせよ、狩ることは可能なのである。
和樹は依頼を達成したのにも関わらず、どうせまた来るのだからとレベリングを開始した。
ここ、始まりの森(王国)にはいくつかの魔物がいる。その浅層の代表としては、敵対行動をめったにしない森スライム、初狩りの化身ツノウサギ、少数の群れにて動くゴブリンが挙げられる。例外として、森林内を群れの食事のために走り回る存在として灰オオカミがいる。しかしながら、食事のためと言うだけあり、めったに浅層には来ない。
よって、知能に乏しい弱い魔物であれば、ソロでのレベリングも可能であるという理論だ。
とは言うものの、このゲームはどこまでもリアルである。
事実現実であるのだから、そんな暴論がまかり通るわけがない。
夜になれば夏場といえどもその寒さは人の動きを阻害する。暗闇は視認性を大きく下げる。火を出せば格好の的となるし、夜行性の別の魔物が動き出す。ゲー厶風に言うフィールドというのはあまりにもおこがましい、大自然がそこにはある。
もちろん、和樹もある程度は、対策をしている。街へ続く道に出れば、ある程度の問題は緩和する。
まあ、その甘い想定がどこまで通じるかは未知数であるが。
それはともかく、夜まではまだ時間がある。和樹の狩りは順調だ。
「ゴブリンみっけ!」
見つけたゴブリンは7匹と正面切って戦うのはあまりにも危険な数、ならばと事前に用意した罠に誘導をと走る。ゴブリン集団の後ろに付き、少ししたところで一気に駆け込み一発、集団の最後尾のゴブリンに命をひったくるつもりで木刀ジャストミートをお見舞いする。
森の中である故に、走り込みの際の物音を聞いたゴブリンは素早く振り向いたものの、ゴブリンの体躯は和樹の半分ほど。その木刀を防げるはずもなく、順調にレベルを上げていた和樹の渾身のバッティングを食らい、一撃でノックダウンする。ついでにともう一発振り下ろし、追い討ちしたのち、トドメをさせていないにもかかわらず、和樹は他のゴブリンの様子を確認し、そのまま逃走する。
「グッバーイ、J〇J〇〜!」
いくら運動が苦手だと言っても、小学生のようなゴブリンに追いつかれるほどではない。むしろ振り切ってしまうと小走りで、和樹は露骨なまでにゴブリンをおびき寄せる。
悲しいかな。ゴブリンにそのことを訝しむ知恵はない。和樹お手製の足元の高さにツル植物を引いておくだけの超低品質な罠に、視野の狭いゴブリンは集団で走っていることもあり、後続の3匹が引っかかって転ぶ。しかし前方のそれらに後ろを振り返るなどという考えはなく、和樹へと突進していく。
ここまでくればあとは大して重くもない棍棒を持った小さな子供を3人相手にするのと何ら変わらない。一般成人男性ならば何ら苦労することはない。
少し走ってから反転し、ゴブリンをぼこぼこに殴り倒す。最後までついて来た3匹を狩り終えると、経験値を求め、そのまま事前にコケた3匹を仕留めに行く。
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「ふぅ、いい仕事したわ〜」
どこまでも情けない戦い方であると思うのだが、本人には魔獣と戦うときの見栄えなど関係ないらしい。
そのまま狩りを続け、ゲーム内では夕方になっていた。
すっかり日が暮れた空を見て、ずいぶん狩ったとふと現実時間の時計を見るとあら不思議、時計はすっかり16:00になろうとしている。
このゲームはリアルであり、時間もしっかり経つ。時差のようなものはあるが、朝から夕方まで絶え間なく狩りをしていたのだ、現実世界でも時間が経っているはずである。
どうしたことだろうか、夜中の狩りがどうなどと宣う場合ではない、街まで全速力で駆け込み、そそくさとログアウトを実行する。
なんだか急に危機感が湧いてきたことで、家族に何と言い訳しよう、まずいまずいと頭を回す。別にだらしない休日を過ごしているだけなんだと思うようなことだが、彼にとっては一大事である。
その心境はまるで友との別れを惜しむようだ。
口惜しく思いながらも、ログアウトが実行される。
さらば異世界、また逢う日まで
まぁどうせすぐだろ