なんちゅうもろいふねじゃ
副業で科学記事を準備しています。その関係で、今日はいつもより少し早く投稿します。
『リントゥコトのおじいさま、おばあさま!! ペルトマー准尉です!! 聞こえてたら応答ください! アジェーナ様はあの飛行機の群れを見て、単身突っ込んでいかれました!』
通信波を受け取ってエドゥアルドは上空を見上げた。
だが、そこに広がっていたのはチュン帝国の航空戦力が、上空で曵光弾をばらまきながら、一機、また一機と墜ちていく光景だけであった。
「アジェーナ? まだ見えんぞ?」
「ピリッタさん、聞こえていますよ。おじいさん、高高度すぎるだけです、ほらあすこ!!」
――わからん。
助かったことは分かるが、何が起きているのかわからん。
エドヴァルドの脳内が停止する中で、肩越しに指を空のある一点に刺され――その時、初めて、望遠グリッチでも見えないほど遠くから飛行器の小隊が何かを地面に向けて発射していることに気づく。
彼が、リントゥアルエの兵たちが、この事態を引き起こしたのがアジェーナだと理解するのにそう時間はかからなかった。
「なんちゅう脆い機体じゃ……」
敵飛行機が落ちるさまを見て、最も当惑していたのは誰でもないアジェーナ本人である。
ポケットの中に入れていた実包を指ではじき、発火した火薬の力と全力の力学グリッチで加速する。やっていることはシンプルだが、その規模はヒトはおろか、エルフですら届かないほどの高みに到達していた。
「すごい、すっごいですぅ。アジェーナ様。恐ろしい魔法強度ですねぇ……脱帽ですぅ」
「うーん、なんというか火事場の馬鹿力みたいなものだけど……地上の皆さんを助けるためなら、なんだってする!」
そう言いながら、アジェーナは空中に浮かせた実包へとデコピンを構え、残り6割ほどとなった敵飛行機群へと望遠グリッチで狙いを付けて雷管を叩いた。
反動を圧縮空気が受け止める中、発射された弾体がイオン化した空気と共に加速していく。
そうしてマッハ6まで加速した弾体は、運動エネルギーの暴力で軟弱な飛行機の主翼を消し飛ばし、空力加熱によって得た熱エネルギーで炎上させていく。
『なんで、どこから!?』
『ああ、燃える……燃えるぅ!』
『やっぱり無理だよ!! こんな理不尽があるかよ!?』
敵飛行機に乗っている敵兵の悲鳴も、地上の兵士の歓声もアジェーナには届かない。届くのはただ、通信管制のピリッタが喜びのあまり絶叫する声のみ。
(とにかく狙って撃つ、それを繰り返す!)
アジェーナは敵編隊の上で定常飛行を行い、グリッチによる介入を最小限にとどめると、魔弾を射出し、敵を墜とすことに集中した。少なくともこの場ではアジェーナにしかできない神業を航空戦力が絶滅するまで淡々と、淡々とこなしていく。
(目標をセンターに入れてスイッチ! 目標をセンターに入れてスイッチ!)
上空の戦力がおおむね殲滅されたにもかかわらず、チュン帝国の地上戦力は確実にサイマー河南岸を渡河し、リントゥアルエ領へと足を踏み入れていた。
「アジェーナ様、義勇兵達は撤退したみたいですぅ!! それより、サイマー河西岸でまだ第一連隊連隊旗護衛中隊が、アルマス様が殿として交戦中とのことですぅ!!」
「え、なんで逃げてないの!? 連隊旗って大事なものだよね!?」
アルマスは大事な皇太子である。それこそ最優先で逃がすべき人物であり、真っ先に撤退させられている──彼の性格的に、自分から撤退を言い出すことはないだろう──とアジェーナは思っていた。
「当然ですぅ。我々にとって連隊旗は郷里の団結を示す象徴ですぅ!! そしてアルマス様はリントゥアルエ領の次期領主として、その守護を拝命されたわけでしてぇ……」
「つまり、義勇兵が逃げきるまでは、撤退を許されなかったってことね……じゃ、私だけでも助けにいっちゃおうかな」
「そう言わないでください。アジェーナ様、小隊各員。最後まで、お付き合いいたしますよおぉ!!」
アジェーナは、頭を掻きながら飛行器のベクトルを反転させた。
そして、後を追うようにエルフの航空隊は一機も欠けずに彼女の後を追って、怒涛のような渡河が今まさに行われているサイマー河西岸へと向けて降下していった。
死体だらけのサイマー西岸は殺到する敵兵士によって、地獄の一丁目と化していた。
石兵の残骸を踏み台にする者。
渡河橋を踏みつける者。
横たわった死体を踏みつける者。
果てはその辺の石を跳躍して渡ってくる者。
チュン帝国の兵たちは自らを人的資源という数字に変え、自らの命を勘定に入れない狂気に近い突撃を続けていた。撤退を始めた郷土防衛隊は、サイマー河南岸の義勇兵への圧力を分散するために、可能な限りゆっくりと秩序を保ったまま、塹壕地帯からの後退を行っていた。
「酷い……でも、それより――連隊旗、連隊旗どこ……」
戦場の上空、数キロほどを一気に降下してきたアジェーナが、地上で繰り広げられる光景に目を背けながらも連隊旗を視覚的に探しながら、生体回路でも、可能な限りの電波を拾う。
(さっきの電波妨害の効果はもう、大分晴れたはず……郷土防衛隊の、通信はもう回復してるはず……お願い……)
『サイマー河南岸の義勇軍、退却完了しました!! 後方安全を確認!!』
『よし、全員撤退せよ!! 殿は引き続き我々第一連隊軍旗護衛中隊が務める、各員、必ず、生きて帰れよ!!』
『はっ、必ず!!』
『お前らもだぞ、軍旗を奪われる前に撤退するんだ!』
アジェーナの耳元で聞こえた会話は、自軍の通信波だった。
広域回線を用いるリントゥアルエ軍に対して、チュン帝国軍の通信は一切傍受できない。
故にアジェーナの耳に届いたのは、最後尾で必死に戦う護衛中隊の切羽詰まった会話だけだった。
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