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艦砲射撃

『くそっ、奴ら、まさかここまで粘るとは……』

 

 チュン帝国第二軍司令官は、予想以上の抵抗に眉をひそめた。


 当初の計画では、サイマー河南岸の戦線に関しては、もっと早く決着がつくはずだった。

 しかし、実際には義勇兵たちの執拗な抵抗により、戦況は膠着状態に陥っている。


『将軍、これ以上の犠牲は……』


 副官が不安げに進言する。

 彼の目には、すでに少なくない仲間が命を落とした現実が映っていた。


 開戦時の兵力差が大きいため、兵が一対一でつぶし合っても兵力は十分に維持される。それでも、隣の第一軍の出血は既に相当な規模に膨れ上がっていた。


『わかっている……第一軍の将兵のためにも、必ずや奴らの側面を抑えねばならぬ』


 リントゥアルエ領内を制圧するための戦力は多ければ多いほどいい。

 司令官は硬い表情で答えた。


『ならば、これより包囲済みの連隊の士気を打ち崩すため、我らも突撃を敢行する。全員、私に続け!!』


 指揮官の号令と共に、チュン帝国の歩兵たちが一斉に突撃を開始した。

 雨と雪に濡れた地面を蹴り、泥濘を乗り越え、塹壕を目指して殺到する。


『来たぞ!! 奴らも覚悟が出来てやがる!!』

『総員、迎撃準備!! 俺達が崩れたら終わりだぞ!!』


 義勇兵たちが最後の力を振り絞り、迫り来る敵を迎え撃つ。

 双方から銃弾が飛び交い、血飛沫が舞い上がる。


 決して士気に劣っているわけではない。

 だが、純粋な兵力差は最早、如何ともし難い状態に悪化していた。


 彼ら将兵たちの奮闘むなしく、最早第一義勇歩兵連隊の崩壊は時間の問題となっていた。


『この土砂降りじゃ、もう機関砲の冷却水もいらねぇかもなぁ!!』

『爺さん、喋ってる暇があったら死ぬ気で撃ってくんねぇかなぁ!!』


 サイマー河南岸の第一義勇連隊に残された最後の義勇兵が冗談混じりに怒鳴り合う。

 彼らは今なお、チュン帝国の空挺兵たちに包囲されながらも、機関砲陣地を死守し続けていた。


『おい、こいつら、本当にしつこいな……!!』

『油断するな、まだ来るぞ!!』


 敵兵の波状攻撃を捌きながら、二人の兵士は互いに声を掛け合う。

 彼らの機関銃は、まるで獣のように咆哮を上げながら火を噴き、敵兵を薙ぎ払っていく。


『にしても、こんな歳になってまで戦うことになるとは思わなかったな……』

『まったくな。だが、それが我らの役目というものだ』


 彼らの射撃は正確かつ迅速であり、銃撃を受けたチュン帝国の兵士達はグリッチを用いずとも容易に倒れ伏していく。

 しかし、敵の勢いは衰えるどころかますます激しさを増しているようだった。


 幾度かルオトラ側の砲撃がサイマー河の南岸から聞こえてくるが、味方への砲撃を避けるためか義勇軍が立てこもる塹壕側ではなくサイマー河の反対側を中心に砲撃が始まったようだった。


『なんだ、助けてくれるわけじゃないのかい』

『馬鹿いえ、味方に当たらんように配慮してるんだよ』


 それでも彼らは敵兵の波を退けながら決して諦めず、ただひたすらに目の前の敵を撃ち続けた。

 中隊規模で高台に向けて突撃してくる敵を撃つ、撃つ、撃つ。数度の突撃を乗り切ってなお、チュン帝国の兵は諦めることなくレミングの行進めいた圧力を陣地へと掛けてくる。


『ダメだ、もう弾がねぇ。おい、後方から弾取ってこい』

『それが出来りゃ苦労はねぇさ……俺達も、もう終わりかな』


 彼らが、自らの死を覚悟した直後だった。


 数度の爆発音が、チュン帝国の架橋装備を吹き飛ばしながらサイマー河の南岸から響く。

 直後、着弾、爆発――放物線軌道を描かず発射された的確な砲撃が、包囲を完成させていたチュン帝国の戦列の一角をグリッチ避けという概念すら関係なく即座に吹き飛ばした。


『あー、あー、聞こえておりまして!? 総司令官アールニ様、郷土防衛隊旅団長イルマタル様、そして、我が夫、アルマス様、お待たせいたしましたわ!!』


 大出力の通信が、戦場に響き渡る。

 兵たちがサイマー河の南岸へと視線を向けると、そこには土砂降りの雨の中、砲撃によって生まれた物理的な空白を裂いて二隻の河川砲艦(モニター)が列になって、河を遡上していた。


 カルヤラ級モニター「カルヤラ」「トゥルンマー」


全長:35m

全幅:6m

主機:カンシティオント式三胴水管ボイラー+衝動式ギヤードタービン 二基二軸

主兵装:ロヴァリンナ砲兵工廠製75mm山砲×2

副兵装:ロヴァリンナ砲兵工廠製8mm重機関銃×4、ほか、乗員所有の小銃類

 

 対グリッチ弾用の防壁発生機構を艦側面に備えた動く要塞は、その火力を天の導きに従ってチュン帝国第二軍の主力が集結しているであろう位置へと向けていた。


「マルヤーナさん、良かった……間に合った!!」

『アジェーナさん。道中のナビゲートに感謝いたします。砲撃部隊には引き続き、敵増援への対処をお願いしますね』


 義勇第一旅団の包囲を知ったマルヤーナは、危険を顧みず急流となったサイマー河を天の声を頼りに遡上に成功した。

 そして、それに呼応するように、チュン帝国の空挺部隊に奪取された機関銃陣地のいくつかで爆発が巻き起こる。


『マルヤーナめ、いいタイミングで来よったわ!!』

『ええ、おじいさん。おかげで……随分楽が出来ましたねぇ』


 エドヴァルドをはじめとしたリントゥコト擲弾兵中隊の最精鋭たちは、敵部隊の惑乱を行いながらチュン帝国の空挺降下の餌食になった機関銃陣地の奪回に向けて動いていた。

 彼らはここ二日間の戦訓として、リントゥアルエ側の予備兵団がサイマー河南岸に到着したとしても、機関銃陣地を抑えられてしまっては第二軍へと圧力をかける過程で斉射を受ける可能性を危惧した故の行動だった。

 

『おほっ……つーか、機関銃すっげえ!! ばあさん、土産にこれ買おう!!』

『おじいさん、交代……予備兵力が来て、押し返すタイミングで交代ですよ』


 かくして数か所の機関銃陣地を奪還もしくは無力化したのが、契機であった。

 これまでチュン帝国軍にせき止められていた義勇第二連隊の半分が、作戦本部からサイマー河南岸に繋がる丘陵地帯に繋がる街道に向けて、蛇口をひねるように殺到した。


『将軍、この状況は……』

『ううむ、だが、背後を塞がれている状況で撤退など――!!』


 直後、チュン帝国第二軍司令官は、河川砲艦の主砲から放たれた圧縮榴弾の直撃を受けて空高く舞い上がり、地面にたたきつけられる頃にはその肉体は上半身と下半身に分かたれていた。

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― 新着の感想 ―
ヒヤヒヤ物の展開が続いておりましたが、ようやく埒があきそうな感じでしょうか。 ところでおじいさん、機関銃なんでどこで買うつもりなのw
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