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大量突撃

『えっと、弾着――今、敵砲兵陣地に直撃、命中!! 効果大だと思う!!』

「アジェーナ様、ありがとうございますぅ……どうやら、前線はセルヴァさんのお陰で押し返せたようですぅ」


 ピリッタの安堵の声がアジェーナの耳朶を打ったのも束の間、ふと南岸の方向に視線を向けると、アジェーナは突撃する大量のチュン帝国兵を目にした。


「ん? なにあれ……」


 そこでは河があったはずの場所がただの沼沢と化し、その上を人間の群れが複数、全力で駆け抜けている。


『緊急事態!! 敵歩兵がサイマー河南岸で渡河に成功! こちらの守備隊と白兵戦になってる!』


 降雨術式によって増水した急流と機関銃陣地からの懸命な突撃破砕射撃に対し、チュン帝国第二軍は、絶え間なく土砂弾を浴びせかけることでリントゥアルエ側防御陣地を一時的に抑え込んでいた。そして、第一軍の第四次渡河攻勢でリントゥアルエ側の意識が西側に向いた隙をつき、虎の子の岩巨人を河に突っ込ませ、河を埋め立てたのである。


『いけません! あそこを守ってるのは練度に劣る義勇歩兵第一連隊ですぅ! 正規軍のような無理はききませんよぉ!』


 砲火力をリントゥアルエの砲兵部隊に依存し構造物に対する攻撃力に欠ける郷土防衛隊第一、第二義勇歩兵連隊はその奇襲的な突撃に対して有効な対策を持っていなかったのだ。


『……西岸は広域破壊術式を使える部隊が無理やり抑え、おじいさま方と予備兵を南側へと向かわせるとのことですぅ!!』


 河を埋め立てて突撃してきたチュン帝国第二軍に対し、義勇旅団の兵士たちがなおも小銃と機関銃陣地で必死に前線を支える。とはいえ、義勇兵が中心で練度に劣る義勇旅団は度を越した飽和攻撃に対して有効な対策を持っているわけではない。

 渡河に成功したチュン帝国兵たちは、義勇兵たちがこもる塹壕内へと突入、にわかに兵隊同士の白兵戦が起こりつつあった。


『馬賊どもめ、雲霞のごとくわいてきやがる! クソッ、一体どれだけいるんだよ!!』

『死守だ。死守しろ!! 俺達が敗けたら……ぐわぁ!!』


 こうして第一義勇歩兵連隊を拘束している間に、飛行器(カイト)を降ろして歩兵化したチュン帝国の空挺連隊が、縮地系グリッチによって後方に浸透。これにより第一義勇歩兵連隊は後方の予備兵力である第二義勇歩兵連隊との連絡を絶たれ、孤立してしまったのである。


『いいぞ、機関銃陣地を奪え……塹壕内の味方と挟み撃ちにしろ!!』 

『行け行け、殺せ、殺せ、殺せ!!』


 幸い、義勇軍側の戦意はまだ低下していない。一般的な民兵やそれに準ずる戦力が、「少し小突いただけ」で簡単に敗走することを考えると、これは異常なことである。特に、義勇兵の中でリントゥアルエ領民の次に多いカヤーニ領民は、故郷の汚名返上のため、激烈な闘志をもって敵軍と戦っていた。


『マルヤーナ姫様のために!』

『チュン公なぞ皆殺しだ!』


 とはいえ気合いだけでは侵略者を退けることはできない。戦線を維持するためには、練度と物量に勝る敵の歩兵を押し返す必要がある。


『イルマタル様、サイマー河の南岸を優先的に砲撃お願いしますぅ!! はい、はいっ……そうですぅ、今のうちに砲撃を集中して南岸を奪還しないと西側が包囲されますぅ!!』


 ピリッタの通信に、砲兵隊は即応するだろう。

 だが、すでに一部では味方が入り乱れ、歩兵同士の意地と意地の衝突が戦局を左右する段階に入りつつあり、砲兵隊の効果は限定的と言わざるを得なかった。

 

 チュン帝国と違って、敵ごと吹き飛ばせるような味方はリントゥアルエには存在していない。

 そして、戦場における数の暴力は、一般的に決定的な敗北を齎すものだ。


『聞け、第二軍の諸君! 我は汝らの働きに期待している。汝らは帝国の民を代表する偉大なる英雄であり、神の選んだ兵である。我らが偉大なる神の名を、この地に示すときだ!!』


 南岸に上がったチュン帝国第二軍の将軍と思われる人物が、剣を振り上げると共に叫んだ声は、ルオトラ側にもはっきりと聞こえてきた。拡声グリッチでも使っているのだろう。


『敵将を討て!! 戦場に神の愛を示すのだ!!』


 チュン帝国軍第二軍の兵たちは、その怒号とともに、塹壕に籠る義勇軍へと殺到する。特に、チュン帝国空挺兵のグリッチ射撃は凶悪で、遮蔽物に籠り防御グリッチの傘に隠れた義勇兵たちの防御力に勝っていた。


『西が終わったら南で仕事かよ!! エルフ使いが荒いぜ』

『これ、義勇軍見捨てて広域破壊術式で良くねぇか?』


 リントゥアルエ側にとって幸いなことに、サイマー河西側、正規軍正面のチュン帝国軍はしばらく再攻勢どころではない。空気すらも焼き払ったセルヴァの一撃により、一時的にサイマー河の西岸は侵入者を阻む熱圏と化している。


『物騒なこと言うもんじゃありませんよおじいさん……でも、思ったより機関銃が怖いですね。当たったら無事じゃ済みませんよ?』


 その隙をついて飛行器(カイト)を背負ったリントゥコト擲弾兵中隊がサイマー河南岸まで飛行、河岸段丘の窪地に作られた細長い塹壕線へと到達していた。


『そんなもんは、どうにでもなるわい!!』

『最後は魔法(グリッチ)の腕前がモノを言うのよ……』


 彼らは機関銃陣地を奪われ瓦解しつつあった第一義勇歩兵連隊を包囲、分断せんとするチュン帝国の第二軍第二師団、第六大隊麾下の第三歩兵小隊の一団に対して情け容赦なく突撃する。


『敵は幾らだ? 付近の連中は? 包囲されたガキどもは無事か!!』


 目にもとまらぬ早業で敵兵を撃ち倒しながら、リントゥコト擲弾兵のエドヴァルドが叫んだ。


「弾ァ撃ちながら言うな!! 何も聞こえンが、小隊単位で広がってる時点で敵の考えてることはお察しよ!!』

『そうか悪かったよ!! だが、広がってるなら突き崩せばいいだけだ……おい、ウスノロ共――ここはリントゥアルエ領内だ。お前たちが行く場所は地獄以外はねぇ!!』


 たった1個中隊でしかないが、見る見るうちにチュン帝国兵を溶かしていくエルフ系種たちに、第六大隊は浮足立つ。


『馬鹿な!! こんなタイミングで、増援だと!?』

『何故、この土砂降りの中、狙いすましたように……』


 ルオトラの聖地で鍛え上げられたエルフ系種の擲弾兵は、チュン帝国の兵士たちの想像以上に強靭であった。

 彼らは土嚢を足場にし塹壕を駆け抜け、こちらに気づいた第三小隊の兵たちが撃った銃弾を遮蔽物で防ぐ。


『お前らとは鍛え方が違うんだよ! この程度の悪天候なら、普通に西側から飛んでこれるわ!』


 敵小隊の脚は止まった――それを見て擲弾兵たちは、ある者は即座に土砂降りの空へと跳躍し、ある者は地を這うように敵兵の懐へと駆けこんでいく。


『畜し……!?』


 エドヴァルドは塹壕内で突出した若い兵隊が突き出す銃剣の一撃に対し、退くことではなく即座に体を翻すことで対応した。


『おせえよ』

  

 直後、自らが放ったものを含め、数度の撃発が第三小隊の命脈を断った。

少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。苦労して書いたので、感想とか頂けるとなおうれしいです。

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