完全燃焼なんだろ そうなんだろ
セルヴァを出した時からやりたかったネタです。
「当たってる当たってる……ちゃんと、押し返してる」
「はいぃ、アジェーナ様ぁ……各所から、感謝の通信が鳴りやみません。ひいては、イルマタル様より連絡なのですが……敵砲兵陣地への砲撃を敢行するので、そちらの着弾観測もお願いしたいということですぅ」
「了解、ちょっと遠いけど……多分、何とかなるはず!!」
アジェーナは、ピリッタの声を聴き再度望遠鏡を地上へと向けて構え直す。
幸い脳にあふれ出したアドレナリンのお陰で、身体の疲弊が鈍麻するのを感じていた。
「ん? 何アレ」
だが、地上へと再び視線を向けたアジェーナは、チュン帝の第四波が川岸より再度の渡河を行おうとするのを視認した。
それ自体は想定通りのことだが、それにしても異常なのは先頭を歩く異様な人影の列であった。
「何アレ!? 人……でもデカい……なに?」
第四波の先頭を横隊となって歩いていたのは巨大な岩石で作られた兵士の大隊であった。
その身長は五メートルを超えた体に、武骨な岩石の腕が取り付けられている。
その巨腕は肩口に備えつけられた足場に乗る兵士の持つライフルの威力交換グリッチの依拠になっているようで、巨体の肩越しから発射された射撃は戦術級のグリッチ攻撃となってルオトラ側の塹壕に直撃していた。
「なにあれゴーレム……? 初めて見た……!!」
「複数の力学グリッチの達人が、力を合わせて行うチュン帝国の秘伝の曲芸ですぅ。チュン帝国はあの技で火薬がなかった時代に大国までのし上がったんですぅ」
しかし、この巨躯である――今の火薬とグリッチが支配する戦場においては、いい的であるように見えるが……
「威力交換法術攻撃で壊せないの!?」
「体表から『生やす』ように装甲板がついているのが見えますかぁ? あれに魔法除けが取り付けられてて、魔法が無効化されてしまうのですぅ」
装甲板をゴーレムの体表に密着させてしまうと、グリッチ除けによってゴーレム自身が動かなくなってしまう。そのため、装甲板自体はゴーレムに触れないように、各所からはやされた支柱の先に取り付けられていた。それでもカバーできないところは、グリッチよけが付いた盾を持った歩兵が随伴し、巨人と自らに降りかかる光弾や砲撃を、肉壁として受け止めるのである。
「じゃあ、火砲で……!」
「アジェーナ様、我々の目的は、砲兵陣地への攻撃ですからぁ……アルマス様達にお任せしましょう……」
一瞬の逡巡の後、アジェーナはピリッタの言葉に頷き、視線を川岸から対岸の砲兵陣地付近へと向けた。
――今、自分に出来ることを。
それが分かっている、からこそアジェーナはアルマス達、地上戦力の奥の手を信じることにした。
『石人形……? 確かに強力だが、第一波で使わなかったってことは、数が揃わなかったってことだろ。なら、人的資源的に後がないのが見え見えなんだよッ……』
戦場から蒸発した死体の血液がそのまま雨になっているかのような土砂降りが続く中、アルマスは塹壕から身を乗り出して戦術級グリッチを発射する石人形達に身を晒していた。
当初から、チュン帝国の部隊が、ルオトラ人たちが「馬賊」と呼ぶ北狄人の“寄せ集め”であることは分かっていた。
この北狄人という単語は完全に同一の部族集団を指すわけではない。
元来チュン帝国の北方~北東に居住していたヒト種の諸部族連合である。それが1世紀ほど前チュン帝国に武力によって併合された後、リントゥアルエへの植民という大義をプロパガンダされ、単一のアイデンティティを植え付けられ、ここまで連れてこられたのであった。とはいえ、同一の居留地から徴兵されたわけではない彼らは、その立場や装備に大きな偏りがあることは想像するに難くない。
今、アルマスの前に現れた石人形を動かす密技師達、とそれに随伴する盾を持った歩兵たち。
彼らはもともと、主要な馬賊集団を束ねている北狄人貴族や、チュン帝国地方貴族の直臣だったはずだ。
それがこうして、前線に出てきている。
チュン帝国軍に、いや北狄軍において、彼らは今までの数合わせのように使い捨てで消費できていた「人的資源」とは訳が違う「国民」だ。
『まさしく正念場だな。俺たちはもとからだが、あいつらも、そろそろ後が無い……セルヴァ。燃料の使いどころだぞ』
『勿論行けるけど、アルマス様、まさか……』
『あぁ、あの石人形は危険だ。これ以上、被害が出る前に、戦略術式であれを叩け』
『連隊諸君!! これより我ら軍旗護衛中隊はあの石巨人の討伐を行う。各兵、射線を開けろ……神の火に焼かれたくなければな』
直後、アルマスの指揮により、郷土防衛隊第一連隊が塹壕正面から退避したところで、どこからか大型の燃料タンクを取り出してきたセルヴァが高台から最前線の塹壕に向けて突撃する。
『あのメイド……一人で大丈夫なのかよ!?』
『心配しなくても、セルヴァの火を扱う才能はルオトラ広しと言えど一番さ。しばらくは、あのあたりの川辺には入っちゃいけないよ』
雨に打たれる川岸の塹壕から退避した兵士たちが顔をあげて秘密兵器を背負うセルヴァの姿を見る。
石人形から放たれるグリッチ攻撃の衝撃がメイド服をかすめるが、尋常ではない集中からか彼女は微動だにしていない。
『ふふ……不謹慎だけど、楽しくなってきた。まさか酸素アセチレン反応を人間に向ける日が来るなんて……』
直後、戦場の気温が一気に下降した。
グリッチにより、自らと周囲を守るように形成された断熱用の空気層から抽出された純粋な酸素がトーチの前に集まっていく。
『器材準備ヨシ、手袋とヘルメットもヨシ、トーチの準備ヨシ!! バルブ、解放ぉ……!!』
セルヴァが背負ったタンクの圧力弁を捻る。
彼女が背負う大型タンクに貯蔵されていたのは、事前にカーバイド法を用いて生成してきた大量のアセチレンであった。
『挨拶代わりの燃焼試験!』
直後、彼女の手に握られた超大型の溶接トーチから青く透き通った炎がサイマー河に立つ巨人の列へと向けて放たれた。
太陽の見えない戦場を眩い光が包む。3000℃を超える完全燃焼炎によって炙られたあらゆるものが、黒体放射によって煌煌と輝いているのだ。
郷土防衛隊の兵たちには透明な大気の壁に阻まれ熱は伝わらないが、目が潰れるのではと思うほどの光は雄弁にその一撃の威力を物語っている。
『やっぱ貴族はすげえ……魔法のレベルが違う……』
『魔法はブラッドスポーツって言葉の意味がよくわかるぜ……』
かくして、サイマー河を渡河しようとしていたチュン帝国肝いりの第四波の先鋒は、苦痛を感じる暇もなく戦場に現れた炎の剣に焼き尽くされた。
その圧倒的な燃焼によって発生した爆炎は、途中に存在するありとあらゆるすべてを焼き尽くしながら拡散することなく対岸まで届き岩巨人を盾ごと瞬時に溶断する。
『大地の肥やしとなれ!』
セルヴァはおもむろに左右を確認し、そこに味方が居ないことを確認したのちアセチレンの残量を使い切るようにトーチを横薙ぎに振る。
直後、グリッチによって保持された炎の大剣が、憐れな敵兵を容赦なく消し飛ばした。
熱、蒸気。
切り札が蒸発したという事実。
チュン帝国の二の矢が恐慌状態に陥る中で、ルオトラ側の砲撃が後方の砲兵陣地に着弾した。
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