郷愁
水曜日にも更新したので短いですがどうぞ。
模擬戦が終わり、防衛計画の策定も終わって、会議が解散した後。アジェーナはしばらくアルマスの親戚連中に質問攻めにされ、時にはグリッチの実演などもさせられていた。
「どうもありがとうね。絶対守り切るから、お互い頑張ろう」
「あ、ありがとうございました……」
最後の数人がぞろぞろと引き上げ、あとにはアルマスとアジェーナ、後片付けをするマルヤーナとセルヴァが残される。
「つかれた~」
「お疲れ様」
お客様対応で疲弊したアジェーナは、近くの椅子に座ってぐったりと脱力する。
「皆さんなんで私なんかにあんな興味津々だったんですか……」
「もうみんな引退して暇だからね。もともと血の気の多い家系だから、戦技を磨くことに興味津々なんだ」
引退した後の趣味が戦闘力の強化。昔から外敵との小競り合いが頻発していた土地とはいえ、薩摩武士といい勝負だ。
「私なんてまだまだ未熟者ですよ……」
「だが才能は感じるぞ」
「だとすればそれは私に才能を与えた葦原皇国神祇官の技術力が高いって話であって、私はそんなにすごくはないです……」
あくまで自分はすごい人間ではないとアジェーナは謙遜する。葦原の「先輩」やリントゥアルエの人々が強すぎて、まだまだ自分は未熟者であると感じていた。
「お前自身の気の持ちようはともかく、お前の性能は爺様連中の興味を引くほどの物だったということさ。1世紀とか生きてきて、大抵のことは知っている方々だぞ?」
「はあ……」
特に、胸部神経節のおかげで、2つまでのグリッチなら簡単に平行使用できることのあたりが、多く質問された気がする。他人のとって普通ではないらしいことは知っているが、アジェーナにとっては生まれた時から当たり前のことであるため、いまいちうまく説明できた気がしなかった。
「そういえば葦原から、情勢の悪化を鑑み、お前を迎えに行く旨の連絡があった」
「え?」
アルマスの言葉に、アジェーナだけでなく、マルヤーナやセルヴァも振り向く。
「大洋を横断可能かつ高速に移動できる手段で来るそうだ」
「そんな方法、葦原に存在してましたっけ」
アジェーナにそんなものの心当たりはない。あるならとっくにルオトラによこすように要請している。
「いい質問だ。現時点では存在しないから、今から超特急で作るらしい。それで3か月はかかるんだとさ」
「はあ……パフィリア先輩は相変わらず無茶苦茶するなあ……」
アルマスから種明かしされ、アジェーナは頭を抱えた。
「そのパフィリアって言うのが、ちょくちょくジェナちゃんの言ってた『先輩』の名前?」
「うん。当然源氏名で、本名は別にあるんだけどね。葦原で最初に作られた叡智種で、私たち第1世代より凝った作りをしているの。だから頭も法術も凄くてね、飛行器とかいろんな機械を設計できるし、それに使う材料まで開発ができる、まさに万能の天才なんだ」
そんな先輩に直接グリッチの指導を賜ったのが、アジェーナ達第1世代叡智種第1ロットの誇りとするところである。と言っても、本国にいる間に次世代や次ロットの話は聞いたことがなかったので、パフィリアから直接教えを賜れたのが自分たちだけだったのかどうかは、ちょっと確証がない。
「今の葦原の急速な技術革新も、そのパフィリアさんが主導しているんですか?」
仕事の手を止めずに、マルヤーナも会話に入ってくる。
「まあそうだと思います。もちろん、殖産興業の事は神祇官の所掌外なので、工部省との二人三脚で進めてるみたいです」
「機械設計も材料開発もできて、その上役人との折衝までこなせるのか。いったい前世は何をやっていた人なんだろうな」
半ば呆れたような口調でアルマスが言った。
「私も知りたいんですけど、誰にも教えてくれないんですよね。『こういうの慣れてるから』とはよく言うんですが」
ただ、そのセリフを吐くときの彼女は、決まってうれしそうな表情をする。このため、何か悲惨な過去があって無理やり身に着けた能力ではないのだろう。
「ぜひとも一度話してみたいものだ。もしかして、現在全力で用意しているという『迎えの手段』を動かすためにここまで乗ってきたりしてな」
「そのためにも、まずは3か月、アジェーナさんを守り切らなければいけませんね」
「ルルも頑張るよ!」
「ありがとうございます! 私もぜひ、あの人に皆さんを紹介したいです。墜落した私が元気に暮らしてられるのは、間違いなく皆さんのおかげですから」
アルマスのコメントに、アジェーナは嬉しそうに答えた。
少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。感想とか頂けると、作者のモチベーションになります。




