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コスケンキュラ邦営牧場

本当は政治的な根回しとか書いたほうがいいのかもしれませんが、サクサク進めていこうと思います。

(うわぁ……)


 見渡す限りの広大な平原。そのなかで数百頭はくだらないトナカイの群れが、思い思いの姿でくつろいでいた。大部分にはまだ一応雪が積もっているが、トナカイがえさを求めて掘り返したところなどは下の草原が見え、春の訪れを感じさせる。


「ここなら燃料はその辺を木を切ってくればよいし、敷地も腐るほどある。ロヴァリンナからもそう離れてはいないから、試験をするにはもってこいだろう」


 鮮やかな青色の防寒着に身を包んだアルマスが、ルオトラの大自然に圧倒されているアジェーナの横に立って言った。


「凄いたくさんのトナカイたちがいますけど、これどうやって養ってたんですか?」

「領邦内から飼料をかき集めて、足りない分は他所から買っているらしい。ここみたいに普通の家畜みたいな育て方をしているところはまれで、他の村ではほとんど放し飼いみたいな状態のこともざらにある」

「なんとワイルドな……」


 ほとんど遊牧民である。これでは生活も不安定で、近代化は望めない。


「十分な餌を定点に用意できるなら、放牧は最小限で済む。今回の取り組みで、農村の近代化が進めば、我が国の財政もよくなっていくはずだ」


 言葉のわりにうれしくなさそうな表情で、アルマスがアジェーナを見上げる。今も苦労している地方の住民のことを憂慮しているのか、はたまたプロジェクトの成功に自信が持てないのか。


「はい、何としてでもやり遂げましょう。大丈夫、何とかなりますから」


 そういってアジェーナもアルマスの方を向いて笑顔を作る。きっと自分以上の重圧を受けている彼を、不安にさせるといけないから。




 建てる温室は現代日本で一般的なビニールハウスではなく、技術レベルや雪害を考慮してフェンロー型ガラス温室とした。骨格はアールヴヘイム製のニッケルクロムモリブデン鋼管──リントゥアルエはアールヴヘイムにニッケルを輸出しているため、アールヴヘイムの鋼材が安く手に入る──で可能な限り細く作られ、日光を極力遮らないように配慮されている。


「こうやって他人が自分の指示で動いてくれているのを見ると、いよいよ始まったんだなって気持ちになりますね」


 エルフ系国家に伝わる伝統的な焼き菓子──葦原で食べたアールヴヘイムからの舶来品と違って、常識的な硬さだったので驚いた──をかじりながらアジェーナが言った。二人は玉切りされた丸太に座って、コスケンキュラ男爵──森とともに生きてきたことを感じさせる、たくましい中年ヒト男性だった──の指揮のもと、先行して納入された資材を村人達が組み立てていく様子を眺めている。


「これまでは父上に裁可を仰いだり、御用商人に資材を注文したり、コスケンキュラ村長(だんしゃく)と建設予定地や人足の募集について打ち合わせたり……下準備ばかりだったもんな」


 アルマスたちに救助されてから3日目の午前中、アジェーナはアルマスに連れられて、現リントゥアルエ辺境伯──つまりアルマスの父親──アールニに謁見した。アジェーナの仕官と開発計画の実施については認められたものの、条件が付けられている。


「アルマスさんが責任を負って、事務手続きなんかも全部やる……というのは、少々骨が折れましたね」

「父上としては、そろそろ本格的に政務を教えていこうと思っていた時、手ごろな案件が転がってきたのでそのまま投げ返したって感じなんだろう」


 やれやれといった様子で、アルマスは伸びをした。


「身元が怪しい私の仕官もソッコーでOKしてましたし、リントゥアルエ家って本当になんというか、思い切りのよい家風なんですねえ……」


 もっといろいろ問い詰められるかと思っていたアジェーナは、アルマスの食客になることがあっさり認められて拍子抜けしたことを覚えている。


「あの時も言ったが、辺境という厳しい環境で外敵と対峙するんだから、そりゃあ豪傑型の人間じゃないと部下がついてこないし、本人もつらいってことなんだろ」

(へぇ……)


 前世でも今生でも、陸上で異民族と接している国にいたことがなく、アジェーナはそんな環境を想像することこそできても、完全に理解してるようには思えなかった。


「あと、君の身元についてはあの時点ですでに確認が取れていてな」

「!?」


 まさかそんな早く裏取りがされていたとは思わず、アジェーナは目を丸くしてアルマスの方を見る。


「ノールボッテン州から『飛行機(プレイン)並みに大きな飛行器(カイト)がそっちに降りていませんか』って電報があったんだ。どう見てもアジェーナの事だったから『我が(くに)に墜落したから乗員を保護しています』って返事しといたぞ」

「あ、じゃあ、あのとき私がノールボッテンに出した手紙は余計だったんじゃ……」


 だいぶ前とはいえ、自らの無事を知らせる手紙を自分からも出したことを思い出し、アジェーナは愕然とした。


「別にいいんじゃないか? 墜落した本人からの手紙もあったほうが信憑性が高まるだろ。葦原に手紙を出すついででもあったしさ」


 ちなみに、ルオトラから出した手紙が葦原までたどり着くには、片道1.5か月以上かかるらしい。アジェーナの最終的な身のふるまいを決定づける祖国からの返事は、あと2か月は来ないことになる。


「ま、まあそうですね……」

「というわけで話は戻すが、うちは即断即決しがちなだけで脳筋というわけじゃないんだ。母上は文官系の宮中伯『カンシティオント家』から嫁いでるしな。だから、こういう内政系の提案も、中身がちゃんとしててタイミングが良ければ採用されるのさ」

「……へ?」


 気になる情報が一瞬で詰め込まれたせいで、フリーズしてしまうアジェーナであった。

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外敵と対峙する辺境なのに、宮中伯から嫁が来てるのか。国としては重視してますよ、中央とのパイプは繋がってますよという意味かな。
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