表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/23

【和風ファンタジー】4話 (1)【あらすじ動画あり】

ご閲覧、ありがとうございます!

お忙しい方のための、あらすじ動画↓

=============

◆忙しい方のためのショート版(1分)

https://youtu.be/AE5HQr2mx94


◆完全版(3分)

https://youtu.be/dJ6__uR1REU

=============


【あらすじ】



時は大正と昭和の境目、帝都一の歓楽街・浅草。

少年・銀次は、口先ひとつで芸を売る香具師しょうにんとして生きていた。

震災で家族を失い、浅草の裏町〈幻燈町げんとうちょう〉に通いながら、人々が失った「大切なもの」を探し出す——それが彼のもう一つの仕事、「探しモノ屋」だ。


ある日、浅草紅団の頭領・紅子が失踪する。

銀次は、幼なじみで黒団団長の辰政とともに、紅子を探すことに。


銀次は果たして紅子を見つけ出せるのか。

そして、自らが探し続ける「失ったもの」は、どこにあるのか——。



ぱあっと、陵蘭の顔が輝く。


「そうか、そうか。いつも悪いねぇ。では、これをお使い」


そう言って、陵蘭は手にしていた扇を差し出した。

銀次の一ヶ月分の上がりに相当しそうな、高級品だ。


銀次はそれを慎重に受け取ると、露店の並ぶ通りへ出た。


通りには、さまざまなモノたちが行き交っている。

人、妖、得体の知れぬ異形の者。


銀次は通りの賑わいを見ながら、何度か深呼吸をする。

そして、最後に大きく息を吸うと——


「さァさァ。いらはい、いらはい。御用とお急ぎではない方は、ゆっくりと聞いておくれ!」


ぱん、ぱん、と手のひらを扇で叩きながら声を張り上げる。


「なんだ、なんだ?」

ざわつく往来の者たちが、ひとり、またひとりと小柄な少年へと注目し始める。

久しぶりに味わうこの感覚——

銀次の胸の奥で、商人の血が高鳴る。


「結構、結構。結構毛だらけ、猫灰だらけ! 見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ——」


声の調子を整えながら、音調をあげていく。


「ものの始まりが一ならば、国の始まりは大和の国。泥棒の始まりは石川五右衛門、ってね!」


ぱん、と扇をひとつ。


「続いた数字が二。日光結構東照宮。憎まれ小僧世に憚る。兄さん、寄ってらっしゃいな。吉原のカブってね!」


観客がざわざわしてきたのを感じながら、銀次は間髪入れず、調子よく続けた。


「さても、何でも揃うこの幻燈町。——しかし、求める愛や恋は売っておるまい。……え? 売っている? そりゃあ大変だ!」


わざと肩をすくめて、おどけてみせる。


「ならば私、今日は恋を売ることにしましょう。恋もまた、買ったり売ったりできるものでございます。——ただし、心の売り買い。目には見えない、値のつけようもない代物ですがね!」


ここで、銀次は少し声を落とした。


「私ァあんたが憎い。憎けりゃ盗んでおしまいな。恋には盗みも許される。可愛いあの娘の心を盗みたい? 粋な姐さんに心を盗まれたい? ……それならば、この先の四つ辻へおいでなさい。麗しき大泥棒が、そこのあなたをお待ちしておりますよ!」


扇を高く掲げ、くるりと一回転させる。


「さァさァ、いってらっしゃい、見てらっしゃい! おっと、そこの兄さん、ありがとう!」


銀次の口上に誘われて、あちらこちらで「どうする、行ってみるか?」と移動するモノが現れ始めた。

それを狙っていたのか、路地の影から、陵蘭付きの遊女たちが現れる。


「皆様ぁ〜、幻燈町一の遊郭『花蛇』は、この通りの先にございますぅ〜。

私たちが、ご案内いたしますよぉ〜」


きらびやかな衣装をまとった彼女たちの登場に、観客は色めき立つ。

ひとり、またひとりと、遊女たちのあとをぞろぞろとついてゆく。


「どうやら、今日は大入りのようだのぅ」


暗がりから悠々と現れた陵蘭が、満足げに笑う。


「さすが銀坊。お前さんの啖呵(たんか)はいつ聞いてもすっきりするのぅ」

「えぇ? いやぁ、それほどでも……」


感心したように言われると、悪い気がしないのが悔しい。


——啖呵売(たんかばい)

それが、銀次の得意芸であった。


彼の家系は代々、浅草で露店を出す香具師(やし)

その商売道具は、もっぱら口だ。

達者な啖呵ひとつで、道端の石ころでも宝石と思わせて売りつけてしまう。


買う方もそれをわかっていながら、ついつい口車に乗ってしまう。

それが、啖呵売というものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ