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【和風ファンタジー】3話 (1)【あらすじ動画あり】

ご閲覧、ありがとうございます!

お忙しい方のための、あらすじ動画↓

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◆忙しい方のためのショート版(1分)

https://youtu.be/AE5HQr2mx94


◆完全版(3分)

https://youtu.be/dJ6__uR1REU

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【あらすじ】



時は大正と昭和の境目、帝都一の歓楽街・浅草。

少年・銀次は、口先ひとつで芸を売る香具師しょうにんとして生きていた。

震災で家族を失い、浅草の裏町〈幻燈町げんとうちょう〉に通いながら、人々が失った「大切なもの」を探し出す——それが彼のもう一つの仕事、「探しモノ屋」だ。


ある日、浅草紅団の頭領・紅子が失踪する。

銀次は、幼なじみで黒団団長の辰政とともに、紅子を探すことに。


銀次は果たして紅子を見つけ出せるのか。

そして、自らが探し続ける「失ったもの」は、どこにあるのか——。



「ここは、浅草の知る人ぞしる裏町(うらまち)幻燈町(げんとうちょう)なぁりぃ」


仕事の時の声色で言うが、辰政は聞いていないようだった。奇妙な町の様子を見て、目を丸くしている。


幻燈町(げんとうちょう)は一見、浅草とさほど変わらない。


色とりどりの旗を掲げた露店。声を張り上げて品物を売る商人たち。品定めをする客たち。

その賑わいはさながら、三社祭りの時の浅草寺のようだ。


——だが、よくよく目を凝らしてみると、店先には奇妙なものがあふれていた。


壊れた鏡や陶器。何の動物かわからない頭蓋や骨。

西洋の小瓶に入った、得体の知れない色の液体。


果ては、何も置いていない店先で「さぁ、見ていっておくれ」と、にこやかに客を呼び込む商人までいる。


そして、店先に立つその商人たちもまた、どこかおかしい。


体は人間だが、頭は獣だったり、一つ目だったり。

明らかに「人」とは呼べない異形の者たち。


「な、何だこれ……」


珍しくポカンと口を開ける辰政を横目に、銀次は得意げに胸を張る。


「幻燈町の(いち)だよ。幻燈町は、裏町の中でも有名な商人の町なんだ。特にこの夜市(よいち)は『手に入らないものはない』って言われてるくらいで、世界中のあらゆるモノたちが品物を求めに集まってくる。人間はもちろん、妖怪、幽霊、異世界人——」

「ちょ、ちょっと待って……!」


辰政は、銀次の言葉を手で遮った。


「なんだよ、それ……何で、何でそんなものが浅草に……!?」

「浅草だけじゃないよ。裏町は日本中にあるんだ。それこそ銀座や浅草みたいな人の欲望が集まる場所には、必ずと言っていいほど裏町が隠れてる。ただし裏町に通じる裏道を見つけられるのは、それなりに修行した人とか、元々そういう目を持った人だけ。……まぁ、たまにひょんなことで迷い込んじまう人もいるけど」

「……じゃあ、お前は? どうして、その道がわかったんだ?」


銀次は一瞬、言おうか迷った。

だが、ここまで来てしまえば隠し通すことなどできない。


「俺は……ちょっと、ここで商売をしてて」

「商売……? まさか、お前が最近始めたっていう『探しモノ屋』って……!?」


銀次は、こくりと頷いた。


「そう。俺はお客の欲しいモノや探してほしいモノの依頼を受けて、そのモノや情報をここへ仕入れに来る。ここには、形のあるものもないものも、何でも揃っているからね。それを客に渡して代価をもらう。要は買い付けみたいなもんだ。知り合いの異国人が、『バイヤー』って呼んでたけどさ」


呆然と聞いていた辰政は、ガクッと肩を落とす。


「……何だ、そういうことか。変だと思ったんだよ。面倒くさがり屋のお前が、『探しモノ屋』なんて、駆けずり回る仕事をするはずがないって」

「その通ぉり。何せ、俺の座右の銘は『最小の労力で最大の利益』ですから」

「自分で言うなよ。この守銭奴(しゅせんど)が」


ぺちん、と辰政は銀次の額を指ではじく。

だが、すぐに表情を引き締めた。


「いいか? これだけは聞いておくぞ。お前のやってることは、危ないことじゃないんだろうな?」


その真剣な目に、銀次は少し戸惑いながらも


「ん、まぁ……」


と、曖昧に頷く。


辰政はジッと銀次を見つめ、もう一度、念を押した。


「本当に、危険なことじゃないんだろうな?」


「……大丈夫。ちょっとした副業だから、さ」


銀次がそう答えると、辰政はようやく大きな息を吐いた。


「そうか。それならいい。にしても、裏道とか裏町とか……まだよくわかんねぇけど、こんな世界もあるんだな。俺たちの浅草も、思った以上に広かったってことか」


まるで何でもないことのように、辰政は言った。


銀次が彼をすごいと思うのは、こういうさっぱりしたところだ。


自分がはじめて裏町に足を踏み入れた時など、あまりのことに気絶してしまったというのに——


(……このことだけは、絶対に言うまい)


銀次がそう心に決めた時、


「うわっ……!」


突然、周囲の人間や異形の者たちが、「こっちだ、こっちだ」と二人の間に割り込んでくる。

遠くから、「表の市にもない、本物のガマの油だよぉ〜」という声が響く。


どうやら客たちが、その声の主へ殺到しているらしい。


「辰っあん…!」

「銀次っ……!」


人波に飲まれ、辰政の姿がみるみる遠ざかっていく。

銀次は必死に手を伸ばすが、大入道の集団に阻まれ、逆方向へと押し流されてしまった。



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