【和風ファンタジー】1話 (3)【あらすじ動画あり】
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お忙しい方のための、あらすじ動画↓
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◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
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【あらすじ】
時は大正と昭和の境目、帝都一の歓楽街・浅草。
少年・銀次は、口先ひとつで芸を売る香具師として生きていた。
震災で家族を失い、浅草の裏町〈幻燈町〉に通いながら、人々が失った「大切なもの」を探し出す——それが彼のもう一つの仕事、「探しモノ屋」だ。
ある日、浅草紅団の頭領・紅子が失踪する。
銀次は、幼なじみで黒団団長の辰政とともに、紅子を探すことに。
銀次は果たして紅子を見つけ出せるのか。
そして、自らが探し続ける「失ったもの」は、どこにあるのか——。
「おい、銀?」
「え?」
ハッと我に返ると、目の前の辰政が大きなため息をついていた。
「お前、そんなにぼーっとしてて大丈夫か? 落ち着いたとはいえ、エンコにはいろんな奴がいるんだぞ。 ただでさえお前は、あんなところに住んでいるってのに——」
辰政がぶつぶつと小言を言い始めた。
普段は万事あっさりしている彼だが、この件にだけは何かとうるさい。
今、銀次が暮らしているのは、震災前『十二階下』と呼ばれていた私娼窟の一角だ。
浅草の密かな名所だったそこは、震災後の取り締まり強化で娼婦たちが玉ノ井などへと移り、すっかり寂れてしまった。
銀次はその空き屋のひとつを(勝手に)借り受けて住みついている。
だが中には震災後も留まり続け、絵葉書屋、銘酒屋と称して怪しげな宿をしている連中も少なくはない。
辰政は、それが気に入らないらしい。
「お前、騙されて売られたりするなよ」
「へ? まさか、ないない」
銀次は片手を振り、カラカラと笑った。
「俺ァこう見えても、生粋の浅草商人。芸とモノは売っても、自分は売らねぇよ」
威張るように肩をそびやかすと、辰政が懐かしそうに笑った。
「銀次の親父さんの商人格言か。まぁ、お前は親父さん譲りの商売上手だから心配いらねぇか。何か新しい商いも始めたって聞いたし——って、いけね」
六区の方から活動写真の上映を知らせる鐘がなり、辰政は素早く身支度を調えた。
「じゃ、俺もちょっくら仕事にいってくるわ」
「おう。いってら〜」
銀次は手を振って、辰政の後ろ姿を見送った。
「ねぇ、今のって黒団の頭領だよね?」
すぐ近くで柔らかな声がした。
慌てて見回すと、スーツ姿のすらりとした人物が、覗きカラクリを覗いていた。
三つ揃いに中折れ帽。エナメルの靴。
銀座辺りを歩いていそうなモボの格好だ。
背はそこまで高くないものの、ほっそりとした体格に洋装がよく映える。
「ちょっと聞きたいのだけど、君がここの店主?」
顔を上げたモボは、切れ長の目で品定めするように銀次を見た。
栗色の髪に、白皙の肌。さらりとした顔立ちは中性的といっていい。
(なんで、こんな人種がここに……?)
訝しみながらも、銀次は両手でもみ手をし、愛想笑いを浮かべた。
「へぇ、そうですけど。今をときめくモダンさんが、こんな見世物小屋に何のご用で?」
モボは一瞬ためらったあと、口を開いた。
「それが……噂で聞いたんだ。ここに『探しモノ屋』があるって」
「え……?」
一拍おいて、銀次はピンときた。
——これは、もう一つの仕事の客だ。
背筋を正し、相手と向き合う。
「へぇ。私がその『探しモノ屋』です。言っていただければ、何でも承りますよ。もちろん代価さえ払っていただければ、ね」
「!? それじゃ、やっぱり君が!? 嘘だろう? まさかこんな子どもだとは思わなかった。それに、何だかインチキくさいし……」
手甲に脚絆。昔ながらの行商の格好をしている銀次を見て、モボが胡散臭そうに呟いた。
銀次の笑顔に、ピキリと亀裂が走る。
「……おい、ちょっと聞いてりゃネエチャン! インチキインチキって、こちとら先祖代々将軍様の頃から、ここで売してんだっ! 観音様に背を向けられても、こっちが背を向けなきゃいけねぇような真似はしてねぇ。ちょっと別嬪だからってナメってもっらっちゃぁあ——」
そこまで言って、銀次ははっと気づいた。
売以外で客に啖呵を切るなんて、商人失格だ。
一瞬で笑顔に戻り、へへへと頭を搔く。
「や、失礼しやした。今のはちょっとした冗談で——」
「いや、それより……いつから気づいてた? 私が女だって」
男装の麗人は信じられないといった様子で、じっと銀次を見た。
見れば見るほど女性——しかも結構、若い——にしか見えなくて、銀次はドギマギしてしまう。
「へ、へぇ……最初からかな? 別嬪には目がないもんで」
軽口を叩くと、麗人は「ふっ」と妖艶に微笑んだ。
「浅草の男の悪いところは、些か口が軽すぎるってことだね。 でも、さすがは商人筋。モノを見る目は確かなようだ。インチキと言ったのは取り消すよ。 そこでだ——私は君に探しモノの依頼をしたい。報酬はいくらでも出す」
「報酬」という言葉を聞いた途端、銀次の顔がすぐさま商人のそれに戻る。悪代官さながら、腰を折り、声を潜めて囁く。
「へぇ、ありがとうございます。それで——どんなモノで?」
麗人は周囲を見回し、同じく声をひそめた。
「女の子だ。紅子という名の女の子を探して欲しい」
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