【和風ファンタジー】8話 (1)【あらすじ動画あり】
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お忙しい方のための、あらすじ動画↓
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◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
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【あらすじ】
時は大正と昭和の境目、帝都一の歓楽街・浅草。
少年・銀次は、口先ひとつで芸を売る香具師しょうにんとして生きていた。
震災で家族を失い、浅草の裏町〈幻燈町げんとうちょう〉に通いながら、人々が失った「大切なもの」を探し出す——それが彼のもう一つの仕事、「探しモノ屋」だ。
ある日、浅草紅団の頭領・紅子が失踪する。
銀次は、幼なじみで黒団団長の辰政とともに、紅子を探すことに。
銀次は果たして紅子を見つけ出せるのか。
そして、自らが探し続ける「失ったもの」は、どこにあるのか——。
兄——清一郎は黒の長外套を身にまとっていた。その姿は、紅子が言っていた通り、西洋の魔術師を彷彿とさせる。
「兄ぃ……生きてたんだね……」
込み上げてくる思いに、銀次の声が震える。
対する清一郎は、静かに微笑んだ。
「銀次。久しぶりだね。君が僕を探してくれていることは、噂で知ってたよ。ただ僕は、あらゆる世界を放浪しなくてはいけない渡りの商人。なかなかここに帰って来られなくてね」
銀次は、兄の言葉を理解するのにしばらくかかった。
「兄ぃが……渡りの商人⁈」
銀次はハッと息を飲む。
「もしかして、あの地震の時——」
「そう。話せば長くなるんだけどね」
清一郎は頷き、背後の景色へ目をやった。
「僕はね、銀次。ずっと、どこか遠くへ行きたかったんだ。いろんな場所へ行って、いろんなものを見たい。でも、病弱な体がそれを許さなかった。そんな僕が唯一見ることのできた世界は、この十二階からの景色だけ。きっと自分は、この風景だけを見て終わっていくのだろう。そう、覚悟していたつもりだった」
一瞬、風が吹き抜ける。
「でも、あの地震が起こって、塔の上から投げ出されたとき、僕は思った。このまま死にたくない。最後に、一度だけでもいい。違う世界を、見てみたいと」
——その願いが、裏町を開いた。
銀次は容易に、そのあとの展開を想像することができた。
「気がつけば、僕は裏町の通りに立っていた。目の前には渡りの商人。彼は言った。『お前の望みを叶える代わりに、私の願いを聞いてくれ』と」
清一郎は空を仰ぎ、目を細める。
「彼は倦んでいた。終わりのみえない永遠の放浪に。渡りの商人は、どんな土地に行っても、必ずそこを離れなければならない。どんなに大切な人やモノができても、別れは避けられない。もし巡りに巡って同じ土地にいけたとしても、大切な人やモノはもうない。時間の流れは、その世界によって違う。こちらの一秒が、別の世界では百年にあたることもある」
小さなため息が続く。
「その一方で、渡りの商人の命は永遠不変。出会った景色や人は、自分を残して消えていく。彼は、その孤独に耐えきれなかった。だから、自分の代わりを探していた。そして——そこに僕が現れた」
清一郎は、当時のことを思い出しているかのように静かに言葉を継ぐ。
「彼と僕は商談を交わした。彼は僕の『病』を買い、代わりに『渡りの商人の運命』を僕に売った。そうして僕はこの世界を離れ、いくつもの世界を渡る存在になったんだ」
その時、風に煽られて清一郎の長外套が広がる。
まるで、黒い渡り鳥のようだ、と銀次は思った。
一歩、兄に近づこうとした足が止まる。
兄の顔をまともに見られず、ただ足元を見つめた。
「兄ぃ……聞いて。あの地震で、父さんも母さんも……みんな、いなくなっちゃった……」
嗚咽に似たものが、喉からこみ上げてきそうになる。
「だからお願いだ。帰ってきてよ。俺には、もう兄ぃしかいない。兄ぃがいなかったら……ほんとに、一人ぼっちだ……」
しぼり出すように言った言葉に、清一郎は首を傾げる。
「本当に? 本当に銀次は、一人ぼっちなの?」
何を問われているのか分からず、銀次は顔を上げた。
その視線の先で、清一郎は少しだけ切なそうに笑っていた。
「父と母が亡くなったことは知っているよ。でもね、銀次。君だけでも生きていてくれて、僕は本当に嬉しかった。……本当なら、置いていきたくなんてなかった。弟を残していくなんて……」
「ならッ……」
銀次が口を開きかけると、清一郎は静かに首を振った。
「だけど、商談契約を破るわけにはいかない。もしそれを破ったら——僕は裏町の幽鬼となって、永遠にあそこに囚われる」
「そ、そんなっ……! じゃぁ、どうすれば……?」
「簡単だよ」
清一郎はさらりと言った。
「君も渡りの商人となって、僕と一緒に旅をすればいい。もちろん浅草を離れなくちゃいけないけど……それでも、いいよね?」
清一郎は無邪気とも言える調子で聞いてきた。
——兄は、少し変わったみたいだ。
以前の病弱で遠慮がちだった印象とは違い、今の清一郎はどこか芯の強さをまとっていた。
銀次は、ゴクリと息を飲む。
「俺は……」




