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【和風ファンタジー】6話 (3)【あらすじ動画あり】

ご閲覧、ありがとうございます!

お忙しい方のための、あらすじ動画↓

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◆忙しい方のためのショート版(1分)

https://youtu.be/AE5HQr2mx94


◆完全版(3分)

https://youtu.be/dJ6__uR1REU

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【あらすじ】



時は大正と昭和の境目、帝都一の歓楽街・浅草。

少年・銀次は、口先ひとつで芸を売る香具師しょうにんとして生きていた。

震災で家族を失い、浅草の裏町〈幻燈町げんとうちょう〉に通いながら、人々が失った「大切なもの」を探し出す——それが彼のもう一つの仕事、「探しモノ屋」だ。


ある日、浅草紅団の頭領・紅子が失踪する。

銀次は、幼なじみで黒団団長の辰政とともに、紅子を探すことに。


銀次は果たして紅子を見つけ出せるのか。

そして、自らが探し続ける「失ったもの」は、どこにあるのか——。



「え……偽物? どういうこと?」

「オイラが説明しますね」


今久(いまひさ)が人懐っこい笑みを浮かべ、横から言ってきた。


「今日、オイラたちがエンコ中を走り回って聞き込みをした結果、紅団の証とされていた“紅いハンカチ”の連中、あいつら実は、紅子の“追っかけ”だっただけらしいです」


「おっかけ?」と銀次。

「ええ。あれと似たようなもんです。昔エンコ中に溢れてた堂摺連(どうするれん)やペラゴロみたいな連中。違うのは、やつらが追っかけているのが、娘義太夫やオペラの娘役じゃなくて、不良少年団の女頭目——紅子だってことです」


今久は肩をすくめた。


「連中は、紅子に近づきたいがために徒党を組み、追っかけをしていたんでしょう。そのうちに、紅子が身につけているリボンを真似て、自分たちの目印まで作ってしまった。周りの連中がそれを『紅団の証』と勘違いした——というわけです」


「つまり、赤いハンカチをつけている連中は、紅子とも、紅団員とも直接的な関係はないってことか……?」

「そうなりますね」


しばらく考えたのち、辰政が言う。


「……そうなると、本物の紅団員は、別にいることになるな……」

「はい。ただ今のところ、何も掴めていません。本物の紅団員がどこにいるのか、どのくらいの規模なのか、さっぱりです」


銀次は、ふと手を上げた。


「ちょっと待って。辰っあんは、本物の紅団員に会ったことはないのか? 黒団の頭領なのに?」

「何度かはある。ただ、紅子の“使い”だって名乗って、こっそり来るんだ。もちろん、公の場に顔を出したりはしねぇ。しかも、毎回違う奴が来るんだ。ある時は、館にいる執事みてぇな男。ある時は、物売りをしてる女の子。またある時は、歌劇団のダンサー……」


辰政は、ぽりぽりと頭を掻いた。


「くそっ、ずっと変な集団だとは思ってたが……まさか、あの紅のハンカチが“偽装”だったとはな。本物の紅団員を隠すための」

「……偽装? 紅団を隠すための……」


辰政の言葉に、銀次はぞわりとする感覚を覚えた。


ちょうどその時、奥山の方から、キャーキャーと子どもたちの歓声が響く。


何かと思って目を向けると、公園の中央で西洋魔術の見世物が始まっていた。

燕尾服にシルクハット、黒のマントをまとった青年が、子どもたちに囲まれている。


術師は、次から次へと魔術を披露していく。

ステッキが花に変わったり、花が鳩に変わったり——。


何気なくその様子を見ていた銀次は、ふとひっかかるものを感じた。

だが、その違和感の正体が掴めない。


「皆さん、温かい声援ありがとう!」

子どもたちの歓声の中、魔術師が恭しくお辞儀をする。


「泣いても笑っても次が最後。集まってくれた皆様へのお礼に、これより大魔術をお見せしましょう!」


そう言って、彼は人が一人すっぽり入れそうな箱を指し示した。


「今から私はこの箱の中に入ります。どうか皆さん、私が入ったらすぐに鍵を掛けてください。厳重に、逃げられないようにね。そして十数え終わったら鍵を外して、中を開けてみてください。もし私がまだそこにいたら、木戸銭は全額お返ししましょう。でももし、華麗に脱出できていたら……盛大な拍手を!」


ひらりとマントを翻し、魔術師は箱の中へと消えた。

子どもたちはキャッキャと笑いながら、箱に鍵を掛け、鎖でぐるぐる巻きにする。


「いーち、にー、さーんー……」

「じゅう! よし、開けるぞ!」


子どもたちが一斉に鎖と鍵を外し、待ちきれない様子で扉を開ける。


「……いない!」


誰もいない箱の中を見て、子どもたちが色めきたった。


「み、見ろよ……! あそこっ!」


小僧姿の少年が、すぐ先の境内(けいだい)を指さした。

そこには、赤い観音堂を背に、シルクハットを手にした魔術師の姿があった。


「あっ!」

銀次は、思わず声を上げた。


——あの顔は。

この間、「探しモノ屋」に依頼をしてきた男装の麗人に、そっくりだった。


(……何で、こんなところに!?)


だが、それ以上に気になったのは——彼の目だった。

何も映していない、まるで人形のガラス玉のような、空っぽの目。


その時、魔術師がサッと動いた。

彼は初めから銀次に気づいていたかのようにお辞儀すると、ひらりと身を翻し観音堂の境内へと消えてしまった。


銀次は立ち尽くす。

胸の奥で、得体の知れないざわめきが、さざなみのように起きた。



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