暴力主義も放任主義もほどほどに。
あの後、特に得られる情報もなく、なんやかんやで家に帰ってきた。
夏休み終わり特有のだるい感じとは別に、新しいなにかの始まりを告げられたような衝撃が未だに頭に残り続けている。
今はこんな感じだが、いつかこれに慣れてしまう日がくるんだと思うと、未来の自分をほんの少しだけ恐ろしく感じてしまう。
こうやって、ベッドに寝転んだって、夢で終わるはずないのに。どうしてか期待してしまう。
新しい始まりなんて無いんだって、本当の日常は何一つ変わってないんだって、厄介事なんて最初からなかったんだって、そう思いたくなる。
そんなことしたって、もう始まったんだってことぐらいわかってる。
それでも、あの力を目の当たりにした後じゃ、この先が不安すぎて、逃げたい気持ちになる。
ああ……どうか。
今日までの出来事が、全部夢でありますように。
「お兄はいるねー」
どうして僕の妹は……こう……人の部屋に勝手に入っちゃいけないってことを知らないんだろう。
指摘したいところだが、慎重にいかなければ。
失敗すれば、今朝みたいになりかねない。
「人の部屋に入る時は、ノックくらいしろ。それが最低限のマナーってやつだ」
「マナーは必要ないよ。だって、お兄と私は新婚さんみたいなものだもん」
「少なくとも僕はそう思ってないから。たとえそうだとしても、夫婦にも個人のプライベートというものが存在している。部屋に入る前に扉を三回くらい叩きなさい」
「はーい」
よし、成功。
新婚発言に若干つまずいたが、立て直すついでにそれすら巻き込めば、完璧にこっちのペースに持っていける。
所詮は10歳児……僕の手の上で操ることは不可能じゃ……。
「なあ。初めて出会ったのっていつだっけ?」
僕は真理に、何気ない質問をかけてみる。
「唐突にわかりきったことを聞くんだねお兄。そんなの、私が生まれてすぐに決まってるじゃん」
「今朝のこと、おぼえてる?」
「今朝?今朝はご飯食べて……着替えて……お兄の学校に行ったー!」
「その前は?ほら、ちょっと口喧嘩したのとか覚えてない?」
「私、お兄と喧嘩なんてしたことないもん」
まじか……これってそういうことだよな……。
マインドコントロールの影響を受けていないのは、僕だけってこと……か。
どうして、僕だけが影響を受けないのかはわからないけど、僕だけがマインドコントロール前の記憶を持っていて、世界の変化に気づけるってことは、僕にしかできない何かがあるってことだと思うんだけど……。
やっぱり、まだ僕にはそれがわからない。
でも、それがわかった時が、本当にめんどくさいことの始まりのような気がするんだ。
「お兄」
「なに?」
「どうして名前で呼んでくれないの?」
「どうしてって……そりゃあ……」
お前のせいで、僕は巻き込まれたんだ。
今でかかった理由に、重い蓋をして、二度と出てこれないようにした。
だってそれは、真理に関係があるようで、今の真理にはまったく関係ないことな気がしたから。
今の真理には、前のような大人のような雰囲気が一切感じられない。
見た目相応に、幼くなっているんだと思う。
だから、悪態だとか、愚痴だとかは、真理が戻った時に嫌味みたいにぶつけてやろう……っと、そう思うことにした。
「ちょっと忘れていただけさ。ごめん、今度からはちゃんと名前で呼ぶよ。真理」
それでいいの。と言わんばかりの笑顔を見せて、真理は僕の部屋を去った。
ーーーーー
その日の夜、みんなが寝静まった後のことだった。
こっそりリビングのテレビをつけて、DVDデッキにディスクを入れて、ソファーに座ってポップコーンを食べながら映画鑑賞をしている誰かがいた。
僕は失念していた。
ある可能性について、全くと言っていいほど考慮していなかった。
影響を受けやすい10才児が、映画鑑賞をした後、その中で活躍しまくる自分を想像して、そのついでに世界を変えてしまうという恐ろしい可能性を。
だからこそ、あんな惨事になったあとで、僕は二度と同じことを起こすまいと、一部の作品に視聴制限をかけることにしたのだ。
ああ本当に、名前で呼び始めるついでに一言言っておけば良かったとものすごい後悔してる。
『今から皆さんには、私の主催するデスゲームに参加していただきます。生き残れたらイイデスネ……ヒヒ……ヒハハハハハハハハハ!』
「夜中にこっそり見る映画の背徳感がたまんないわ。今度、お兄も誘おーっと」
あっぶねぇえええええ!
投稿先ミスってたぁああああああ!