はじめまして。僕な名前はカスカベマリンフォードです。
「私の名はユニバースコア。汝の名はなんというのだ?」
なんの脈絡もなく空から降ってきて、僕の腕の中にすっぽりハマった女の子。
名前はユニバースコア?って言うらしい。
見た目から推測できる年の子としては珍しいが、世間的にはそうでもない。
「あのね。空から降ってきた女の子に教えてあげられるほど、僕の名前は安くないの。そんなことよりお母さんとお父さんは?悪く言うのはいけないと思うけど、自分の子供を空に打ち上げる親なんて、流石に文句の一つ言い放ってやる」
ユニバースコアちゃんは、不思議な顔をしている。
まるで今の言葉を全部理解していないような不思議な表情だ。
もし仮に本当に理解できていないならば、8、9、10歳とはとても思えない。
まあ、子供を空に打ち上げるような親を持つのだから、全然ありえない話ではない気がしてくる。
「お母さん?とお父さん?と呼べる人はいない。いない時はどうすればいい?」
おいおいまじかよ。親なき子かよ。
じゃあなに?虐待?
引き取った親戚の人か、施設の職員が女の子打ち上げたっての?
ろくでもないや。
「いない……ならいいや。めんどくさいし。それで、君はどこから打ち上げられたの?」
まーたまたまた不思議な顔だ。
また理解できていないような……いやまて。理解してるぞこの子。
じゃなきゃ親がいない時の話を聞こうとしないだろ。
じゃあ何?理解したうえで、この反応?
もしかして、打ち上げられてないとか言い始めるんじゃ……。
「打ち上げられたというのは適切な表現ではない。この場合、地球で最も適切な表現は落ちてきた……にあたる」
なるほど。ただの厨二病か。
「そっか。大変だね。じゃあ自分の足で帰るといいさ。怪物オブジェを辿ればたぶん帰れるでしょ」
えっ、何この表情。
怪物オブジェ知らないっていうの?
あっ、そっか。
地球外生命体演じてるんだから、知らない演技をするのが一番正しいのか!
そっかそっか。ならノリにノッてちゃんと教えてあげないと。
「ほら、後ろを振り向くと、電柱よりちょっと小さいくらいのでっかい白いのあるでしょ?あれが怪物オブジェだよ」
僕の言葉通りに怪物オブジェを目視したユニバースコアちゃんは、なんかものすごい怯え顔をしていた。
可愛い幼女顔からはまったく想像できないくらい、それはもう凄い顔だった。
間違いなく演技派だ。
「大丈夫だよ。あれは数年前に現れてから、ただの一度も動いたことがないんだから。だからこそ怪物オブジェって名前なのさ」
あれ。どうしてだろう。
めっちゃ安心してもいいような台詞だったはずなのに、急にもがき始めたんだけど。
少女を抱いてる僕の両腕をもごうとする勢いで、暴れ出したんだけど。
怖ッ!演技に力入ってるッ!
「離せ!今すぐ離せ!逃げる!逃げたい!逃げさせてくれ!ここは危険なのだ!」
「逃げるってどこに逃げるのさ。これ、この街だけでも40体。世界規模でだいたい5億体はあるって話なのに……」
「ごっ!?えっ!?なっ!?」
あっ。力が抜けたみたいにへなって気絶してる。
暴れ疲れたのかな?
厨二病は大変だね。
「……これどうしよう」
今の僕を知らない人に見られたら、絶対誘拐手前の不審者に見えるよね。
僕が同じ状況なら、そっこう通報するもん。
とはいえ、そこら辺にほっぽるわけには行かないし……。
ズシン……ズシン……
「ううぉお……凄い地響き。まるで怪物オブジェが動き出したかのような……」
ん?あれ?あの白いの近くね?
さっきまでこんな目の前に、怪物オブジェの足なんてあったっけ?
こんな時は見上げてみよう。見上げてみれば、わかることだってあるはずさ。
きっと!たぶん!
……怪物オブジェと目があった。
「えっと……こんにちは?」
ガオオオオオオオオオオオオォォォ!
「なんか叫んでいらっしゃる!? 拳がせまっていらっしゃる!?」
ずいぶんと気合の入った雄叫びをあげ、僕らを潰す勢いで突然ぶん殴ってきた!?
えっと……走ってかわす!
ズドンと後ろで音がした。なんてこんな爆発音みたいなうるささをしてるのさ!?
とっさに走ってかわせたはいいものの、これって結構ヤバい状況なのでは!?
気絶した女の子抱えながら走るのは結構エラいハンデなのでは?
だからといって、置いて逃げるのは白状がすぎるのでは!?
ガァアアアアアアアアアアア!!
何あれ!?避けるなって言いたいの?動くなって言いたいの!?
そりゃ嫌でも避けるよ止まってられないよ!
だって、電柱ぐらいの身長の巨像のくりだすパンチなんて、誰もくらいたいわけないじゃないか!
だって、絶対死ぬもん!
「と……とりあえず逃げなきゃ!どこに逃げたらいいかわからないけど、とりあえず逃げなきゃ!」
そんな満身創痍な思いのまま、どこかへ向かって走り出した!
それは、とうぜんあの怪物オブジェから逃げるため!
幸い、地球◯衛軍のバ◯ガみたいに、巨体に見合うくらいのノロノロ加減だったので、入り組んだ迷路のような道を使ってなんとかまいてみせたのだ。
まあ、怪物オブジェが通った道はボロボロだろうけど……。
「はぁはぁ……。なんとか逃げ切れた……」
ドスンドスンと鳴り響く大きな足音が、少しずつ遠のいていく。
どうやら、ちゃんと僕を見失ったようだ。
そう確信が持てて初めて、僕は心から安堵する。
「どうして怪物オブジェが動いてるんだよ!動かないからオブジェなんじゃないのか!?」
誰も聞かないと思えるほど意味のない文句が、急に口から吐き出される。
怪物オブジェに追われたということが、ありえなくて理不尽で、最悪の気分だ。
そんな時、気絶していたユニバースコアちゃんが目を覚ました。
「あば……あば……あばっ!?今の状況は!?私は生きてる!?変態に捕縛されている!?」
「落ち着け顔見ろ目を覚ませ!抱えて逃げ回った恩人を変態呼ばわりするな!」
「恩人だって!?逃げ回ったって逃場はないのに、恩人なんて思えるわけ無いだろう!?」
「逃場がないって何言ってるんだ!僕はこうして逃げ切ってみせたんだぞ!」
「君が言ったんじゃないか!イレギュラーが世界規模で5億体だ!逃場なんてどこにある!?」
……ん?ちょっと待って?
この子のいうイレギュラーってやつが怪物オブジェってことだとして……。
もし仮に、この子が厨二病でもなんでも無くて、ただの宇宙からきた宇宙人の女の子だとして……。
そんな彼女が危惧してやまない相手が、あの怪物オブジェで、しかも逃げ切っても逃場がないって言い切れるってことは……。
もしかして5億体全部動く?
あの一体だけじゃなくて?全部?本気で言ってる?
全部海超えてここまで来るって?
……ま?
ユニバースコアちゃんを抱えながら、近くのマンションのエレベーターを使って最上階へ。
エレベーターを出てすぐの通路で、ユニバースコアちゃんを置いて、通路から街の景色の遠くの遠くまで見渡してみる。
あれが、さっきまで追ってきてた怪物オブジェ。
それで、向かいのアイツも怪物オブジェ。
そのさらに奥のアイツも怪物オブジェ。
あのオブジェなのに空を飛んでるやつも、怪物オブジェ。
……。
「どーすんのこれ!?全部動き出してんじゃんどーなってんのさ!?」
「だから焦ってるんだバカタレ!」
どうすんのどうすんのどうすんのさ!? 遠くを見れば見るほど、めまいがしそうなくらいにいっぱいいるよ!
というか数える必要もないんだよね。
どうせ、ここに5億体の怪物オブジェが押し寄せてくるんだからさ……あはは。
「やはり、力の大半を使ってでもやるしかないのか……」
「なんとかできるの!?」
「あまりやりたくはないが可能だ。二人なら……ね」
二人ならって……それって……それって……僕にもなにかしろってこと!?
そんな世界の命運みたいなのを握ろって言いたいの!?
そんな大役を、その場にいるからって押しつけるって言いたいの!?
そんなの……そんなの……!
「協力してくれるのならば、君の名を教えてくれ。それで同意とみなす」
そんなの……そんなの……!
めっちゃやりたくなっちゃったじゃないか!
「僕の名前は、カスカベ・マリンフォード!よろしくね……えっと、ユニバースコア?」
「今はそれでいい。では改めて。カスカベ・マリンフォード。私の恩人になってくれ」
最後に一話かいてとりま終わり。
やりたい放題が一番気持ちよくて楽しいのだと実感できる毎日。
プレッシャーが大嫌い。
働きたくないでござる。