今更チュートリアルは遅すぎる
殺戮兵器ハッピーくんをワンパンで粉砕するこのパワー!
瞬砕のドンナは伊達じゃない!
「殺戮兵器でもこの程度かー。私、ちょっとは期待してたんだけどな〜」
すげぇまだ先がありそうな感じだしてる!
やっべぇ明日から姉御って呼ぼうかな!
って思ったけど、やっぱやめとこ。あの顔面ぐちゃぐちゃにされたヤンキーがフラッシュバックして、慕い続けられる自信がない!
「じゃあ、あとは私に任せて。カスカベくんはここで隠れてていいから」
「いや、そんな訳にはいかないよ!だって、マドンナを一人で行かせるわけには……」
いや、逆だ。
マドンナの力は計り知れない。
そんな彼女と一緒にいても、かえって邪魔になるだけだ。
だから、ここで真理と隠れているのが正解なんだ。
きっとそれが、正しいことなんだ。
「わかった。ごめん、僕じゃ力になれなくて……」
「いいの。ねえカスカベくん。もし生きて帰れたら、その時は私と……」
そうやって何かを言いかけて、口をつぐむ。
そして何か考え事をした後、つぐんだ口を開いた。
「やっぱり何でもない。続きは帰ってきたら教えてあげる!」
そうやってはぐらかしながら、体育館を出て9階の校長室へ向かって、走り出した。
……あれ9階?
「そういえばお兄。生まれてから今まで忘れてたけど渡しておくのだ」
マドンナが姿が見えなくなるほど遠くへ行ったあと、更にわかりやすく言うと、3階に上がったくらいの頃。
真理がはいっと、変な本を渡してきた。
「10年越しに渡すものが何で本なのさ。言っとくけど、お守り変わりなんていらないからな?そういうのは僕が死んだ時にでも、形見にでもしてくれれば……」
そんな冗談にしてはヤバすぎる笑えないジョークを飛ばしかけながら、僕は本を受け取り、どうせやることもないので読んでみることにしたのだが、タイトルがどうも忘れてたじゃ済まされないような、重要すぎるタイトルだった。
「マインドコントロール取扱説明書ぉ?」
どうして今更渡してきたのかは分からないが、とりあえず本を開いて内容を確認してみる。
「マインドコントロールとは、自分が臨んだ概念を世界にねじ込むことができる、世界改変能力である。発動した時点で当日の午前0時まで時間が逆行し、0時以前の世界は矛盾の無いように改変される。改変以前の世界の記憶を持っているのは、臨んだ者と、改変者とその兄弟のみである……あれ、この改変者っていうのは?」
「私なのだ」
真理が手を上げて答えた。
「あれ、何も知らないって言ってなかったっけ?」
「気のせいなのだ」
コイツ、故意に嘘ついてやがった!
完全にミスリードだし、世界変えた自覚全然あるやんけ!ふざけんな!
「……まあいいや。今はマインドコントロールの対処法を探すのが先だし」
ペラペラと、あれでもないこれでもないとページをめくっていると、あるページに目が留まる。
そのページの見出しには、「兄弟に与えられる権能について」っと書かれてあった。
「改変者が未成年者、または未成年者並みに精神が退化してしまった場合、兄または姉には、改変者に変わって世界を元に戻す責任がありますぅううううう?えっ、なに?要するに僕に世界戻せって言ってんの!?そんな丸投げあり得るの!?」
有り得ちゃってるんですよねぇええええ!
だからこうやって、本に書かれちゃってるんですよねええ!
ええいとりあえず落ち着け僕!
完全に丸投げなんてさすがにないない!
だからきっと何とかする方法が書いてあるはず……!
「兄または姉に与えられる3つの権能……これだ!一つ目……一回の修復につき定食無料クーポン一枚プレゼント!?割に合わない……じゃなくて使えねぇ!二つ目は……」
2.そんなもんねぇよ。
「バカにしてんのかぁああああああああ!」
「お兄静かに。ハッピーくんに気づかれちゃうのだ」
そ……そうだった……。完全に失念していた……。
さっきは、マドンナがいたから何とかなったけど、マドンナが単身で校長室に向かった今、次ハッピーくんに遭遇すれば殺されるかもしれない。
声量は極力最小限に抑えたほうがいい。
ともかく3つ目の権能だ。ここがダメなら完全にお手上げだ。
諦めて、このバイオレンスな世界で生活しきゃならないし、それどころか今日生きて帰れるのかすら不安だし……。
「3つ目の権能。修正……パンチ……?」
何この権能。こんな名前ガ◯ダムネタでしか聞いたことないんだけど……。でも、多分これが、何とかする鍵になるはずだ。しっかり最後まで読み込むんだ。
「本巻最終ページに付録として付いてくる、特異点捜索装置に表示された人物をマジレスしながらぶん殴ることで、世界を元の状態へ修復することができる。世界が修復された場合、改変時と同じように当日の午前0時まで時間が逆行する。0時以前の世界は、マインドコントロールが発生する前の状態へ戻り、矛盾がないように再び元の状態へ改変される……」
つまり、修復の流れはこうだ。
特異点捜索装置で特異点になった人物を特定→特定された人物をマジレスしながらぶん殴る→結果全部元通り。(ただし、マインドコントロール当日に行わなければ、当日の死者や事実は、形を変えて現実になる)
タイムリミットは今日の24時。それまでに、特異点をマジレスしながらぶん殴れば、モブ杉やプロフェッサーの死がなかったことになる。
そうと決まればさっそく特異点を調べよう。
確か、この本の最終ページにあるって書いてあったよな……。
最終ページを開くと、明らかにこれとしか思えない黒い袋とじがあった。
急いで袋をビリビリと雑に破り開き、中の装置を取り出す。
装置の形は完全にたま◯っちだったがそんなこと気にしてる場合じゃない。
一緒に入っていた説明書通りに、さっそく、装置に備えられているボタンを押して、特異点を特定する。
特異点……一体誰なんだ……誰かによってはすごくめんどくさいから、なるべく近くにいる人がいい!
例えば、真理とか死体が残ってるモブ杉とかが望ましい!
家に帰っていいのなら、父とか母とかでも全然いい!
さあ、一体誰なんだぁあああああ!
「先生」
特異点捜索装置から流れた機械音のような声は、確かにそう言っていた。
画面に表示されている顔は、言ったとおりに、僕のよく知る担任の先生だった。
担任の先生ってことは……今9階の校長室でふんぞり返ってるあの頭のネジ外れたイカレ野郎!?
え!?
行かなきゃ行けないの!?
あの死地に!?
どうして!?死ぬかもしれないのに!?
というかちょっと待って、なにか忘れてるような気が……。
「そうだったあああああああ!」
「お兄、だからバレちゃうって……」
「九階なんてない!この学校四階建てだ!」
「えっ!?どういうことなのだ!?」
「だから四階建てなんだよ!屋上含めれば五階だけど、それより上なんてないんだよ!朝きたときは明らかに四階建てのままだったし、五階より上なんてどこに……?」
そう、本来この学校に九階なんて存在しない。
するはずがないのだ。
この学校はどうあがいたって四階建てで、それより上の階なんて存在しない。
でも、先生は確かに九階の校長室って言っていた。
一体どういうことなんだ……?
その時、突然大きな揺れに襲われた。
立っていられなくなるほどの大きな揺れに、思わず膝から崩れる。
揺れそのものは長く続くことはなかったが、明らかに何か大きな変化を予兆させるものだと感じ取る。
「決めた。僕も九階の校長室を目指す。だから、真理はここで隠れてて」
「でもお兄。丸腰でどうやってハッピーくんをやり過ごすのだ?」
「あ」
しまったああああああ!その辺何も考えてなかったあああああ!
一体どうすれば……。
その時、体育館の床に転がり落ちていた、ある落とし物に目がとまった。
「これなら行けるかも……」
そう思った僕は、その危なすぎる落とし物に手を伸ばした……。
デスゲーム書くだけで疲れるからはやく終わらせたい。