創世
翌日。4人は島の東端から、地の道を通ってオルテンデへと向かった。見慣れた洞窟の風景を横目に、前へ前へと進んでいく。しばらく歩いたところで、ウィリが立ち止まって、口を開いた。
「着いたわ。ここが、オルテンデの真下よ」
華は周囲を観察した。見慣れた洞窟の景色。人も居なければ、建物もない。地下だから当たり前だといえばそうなのだけど。華は、身構えていたからか、拍子抜けのような気持ちになった。
「結構、近いんだ。ここに空間を作って、土地を広げるんだよね?」
「うん。そうするつもり」
華の問いに答えて、蓮が洞窟の真ん中に立つ。
「Terra Deo benedicta viror aqua sol luna homines spectant alter mundus creando《神に祝福された大地。緑と水、人々を見守る太陽と月。2つ目の世界を、ここに生む》」
蓮が呪文を紡ぐ。洞窟の中に、風が吹いた。風が雲を連れてきて、雲が雨を降らす。
「雨……? 洞窟の中なのに……ううん、そんなことより、濡れてない……?」
ウィリが天井を見上げて言った。雨が降っているはずなのに、体は少しも濡れなかった。
「これは雨に見えているだけで、実際は違う。目を開いて、よく見るといい。ウィリになら、見えるだろう」
ジゼルに言われて、ウィリは目を凝らす。風が雲を呼び、雲は雨を降らせ、それが川となって大地を潤す。世界の循環が、地の底で繰り返されている。
『ヨバレタヨ』
『ヨバレタネ』
人ではない声が聞こえて、ウィリはようやく気づいた。
「そっか。これは本当は雨じゃなくて、水の精霊たちなんだ」
不思議そうな顔をして、空を見上げていた華が、ウィリの方に視線を向ける。
「どういうこと?」
「この世界は、精霊の力で廻ってる。それは、カナも知ってるでしょ?」
華が頷いたのを確認して、ウィリは言葉を続けた。
「レンさんは、精霊を呼んでるのよ。雨が降ってるように見えるのは、精霊が落ちてきているの。物質としての水があるわけじゃないから、濡れることはないと思うわ」
「そうなんだ。じゃあ安心だね」
華はそう言って笑った。その様子を微笑ましく思いながら、ウィリは考えた。
(でも、地の精霊の領域に、他の精霊を招くなんて。そんなこと、仮に出来たとしても、火や風の精霊は居心地が悪いから嫌がるはず。なのに、皆、楽しそうにしてる。まるで地の底に、もう1つの世界が出来たみたい)
それは奇跡だ。ウィリはジゼルと目を合わせた。きっと、彼女も同じことを考えている。
(これは確かに、黙っていた方がいいわね)
誰かのためではなく、蓮と華のために。ウィリは、そう決意した。




