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出立

入り口の鐘が鳴って、姉妹は扉の方を見た。背に大きな袋を背負ったジゼルが、店の中へと入ってくる。


「店主。代金は、ここに置いていくぞ」


そう言って。ジゼルは店の奥の長机に、手に持った袋を置いた。重い物を落とした時のような音に混じって、金属が擦れ合う音が聞こえたから。その袋にはきっと、硬貨が詰まっていたのだろう。


「お待たせしました。見たところ、旅の準備も終わっている様子ですね。それでは、出発しましょうか」


黒いローブと黒い帽子。双子らしく、同じ服を着た姉妹に向かって、ジゼルは言った。


「……私たちに、気を使わないでください」


(れん)はジゼルを見上げて、その目を見つめた。


「騎士として護衛をしてくださるのは、とても嬉しいです。でも、私たちは子供で。そんな風に、丁寧に接していただくのは、なんだか悪い気がしてしまうので」


ジゼルは少しの間、蓮と目を見合わせた。(かな)が蓮の後ろから、ジゼルの様子を覗き見る。そんな2人の子供の姿を見て、ジゼルは堪えきれないといった様子で笑った。


「……では、遠慮なく」


蓮は、その場で座りこみそうなくらいに安堵した。この申し出は、ジゼルにとって不快なものではないだろうかと思っていたから。さしたる抵抗もなく受け入れられたのは、蓮に取って、とても大きなことだった。


「さて、今度こそ良いかな? これから、私たちは旅に出る。長い旅だが、覚悟はいいか?」


姉妹は頷いて、ジゼルと共に店を出た。太陽の光が、2人に当たる。それはとても眩しくて、2人は帽子を目深(まぶか)に被った。必然的に、視界は狭くなる。蓮は華とずっと手を繋ぎながら、ジゼルが履いている靴を追って、人々の間を抜けていった。幸いなことに、ジゼルは騎士で、普通の人とは歩き方から違っていた。だから蓮は迷うこともなく、彼女の(あと)を追えた。蓮と手を繋いでいた華は、その手が最後まで離れなかったから、はぐれずに着いていくことが出来た。石畳の道が、土の道に変わる。


「街を出たぞ、2人とも。ここからは、人の多いところには、出来るだけ立ち寄らないようにする。宿も、避けるべきだ。我ながら、徹底しすぎているとは思うが……」


蓮は顔を上げた。目の前に、固められた黒い土の道が伸びている。土の道は、2つの方向に別れて伸びていた。片方の先には、家々が立ち並ぶ町が見える。けれど、もう片方。どこまでも広い草原と、その奥に見える高い山。その景色にこそ、蓮は心が踊った。


「凄い……!」


言葉はそれだけ。それでも、その意味は正しく伝わった。華にも、ジゼルにも。


「そうだね、お姉ちゃん」


華だって、そっちの方がずっといい。人が多い場所では、比べられることは避けられないから。2人を比べたことのないジゼルと、たった3人で旅をする。それがどんなに大変でも、姉妹にとってはそれこそが、何よりも夢見た自由だった。ジゼルには、そんな事情は分からない。けれど、少女たちが嬉しそうにしていたから。それなら良かったと、ただ微笑むだけだった。

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