奇跡の具体性
「それで、具体的にはどうするつもりだ?」
「そうですね……。衣類、食料、住居のうち、今最も必要なのは住居だと思います。家を建てるとしたら、上よりも下……それか、横に広げられるなら、その方がいいかもしれません。どうしましょうか」
「エピナル湖は、セルフォスよりもオルテンデに近い。東に広げることはできないな。南には、フェルセンの森がある。国の領土を広げるためには森を燃やさなければならないし、そうして広げた領土は、崩壊した帝国の領土と隣り合うことになる。広げるのなら、下……地下に、新しい家を作るべきだろう」
「では、地下に川と……可能かどうかは分かりませんが、2つ目の太陽を作ってみますね」
「そうだな、頼む。食料については、当面は俺が工面しよう。地下に領土を広げるのなら、農地も多くなる。人手も増えるし、そちらは問題ないだろう。衣類についても、流れてくる難民はそもそも荷物を持っているし、服も着ているから問題はないだろう。地下の土地を確保できさえすれば、後は俺がやる」
他人に頼ることが苦手なのか、メレディスは大真面目な顔で言っている。蓮も似たようなものなので、特に何かを言うこともなく、話を続けた。
「分かりました。では、私がやらなければならないのは、オルテンデの地下をひろげることだけ。それで、良いのですね?」
「人を傷つけたくはないのだろう? オルテンデには入るな。聖女が来るというだけで、揉め事が起こる可能性もある。お前が連れている奴隷が居るだろう。あの奴隷が持っている力を使えば、地の道を繋げて、オルテンデの下まで来ることができる。地下を広げて、上に道を繋げるだけなら、オルテンデには入らなくて良くなるからな」
メレディスは、聖女の存在を隠したいのだろう。地下の土地も、偶然見つけたことにしたいのかもしれない。
(別に、いいや)
蓮は名声も地位も、特に必要だと思ったことはない。
(オルテンデの人たちに会わない方が良いっていうのも、多分、本当だろうし……)
あの神殿で、オルテンデの人々から投げかけられた言葉を、蓮は覚えている。皆が皆、同じように考えているとは思いたくないが、それでも警戒はすべきだろう。
「分かりました。では、それで」
そう言って、蓮は席を立った。ジゼルは無言で後を追う。メレディスは、2人を止めなかった。橡蝠守が蓮の肩に止まって、2人と共に部屋を出ていく。2人が階段を下りて、石の塔から出たところで、ウィリと華が目の前に飛び出してきた。




