貴女と私の、大切な人
次の日。ジゼルと蓮は、塔の前に立っていた。蓮が深呼吸をして、塔に入る。ジゼルがその後に着いていく。華とウィリは、物陰から2人の様子を見守っていた。ウィリが橡蝠守に声をかけた。
「お願い」
橡蝠守は小さく鳴いて、窓から塔に入っていった。華は張り詰めたような表情で、塔の入り口を見つめたまま、動かない。彼女の耳元で、ウィリが囁く。
「カナ。よく聞いて。アタシの言葉に合わせて、呪文を使って。カナには力がある。だからきっと、アタシと同じように……」
華は目を丸くして、振り返った。ウィリはゆっくりと、口を開いた。
「Oculi es mei oculi aures sunt aures meae《アートの目は、アタシの目。アートの耳は、アタシの耳》」
橡蝠守と感覚を共有する、そのための言葉。口に出して言ったのは初めてだったけれど、効果はあった。まるで自分が塔の中を飛んでいるような映像が、目の前に広がる。ウィリの隣で、華が呪文を繰り返す。たどたどしい言い方だったけれど、効果はあったようだった。華は目の前に見える光景に驚いて、叫びそうになった。そして、慌てて両手で口を押さえた。ウィリは彼女の肩に手を置いて、安心させるために声をかけた。
「声を出してもいいのよ。アタシたちの言葉は、アートにしか伝わらないから」
「そう、なの……?」
掠れた声で、華が呟く。ウィリは塔を見上げた。
「そうよ。カナたちを追いかけてたときも、同じことをしてたけど、アタシの声は聞こえなかったでしょ?」
「うん、聞こえなかった。……アートちゃんは、お姉ちゃんがどこにいるのか、分かるのかな」
「分かるわ。だから安心して、任せておけばいいの。アートが見聞きしたことは、アタシたちにも伝わるから。アイツか指定したのは人間の数だけなんだから、これなら文句は言えないでしょ」
「……そうかな。そうかも」
華はウィリの方を向いて、彼女の手に自分の手を重ねた。
「ごめん、ウィリちゃん。ずっと気にしてくれてたのに、私、余裕がなくて……」
「レンさんが心配だったんでしょ? アタシもそうよ。あの人はいつだって、アタシたちを守ってくれるもの。何か返したいと思うのは、当たり前よね」
ウィリは本気で言っている。それが分かって、華は少し嬉しくなった。
「そう! そうなの! お姉ちゃんはね、優しくて、しっかりしてるの。でも、自分のことになると抜けてて。だから私は、お姉ちゃんのことを心配してるの」
華は前のめりになりながら、早口でまくし立てる。双子の姉妹だとしても、それは少し異常に思えるほどの、愛情が籠もった言葉だった。けれど、ウィリは気にせず、微笑みながら聞いている。一通り喋って華が落ち着くと、ウィリは塔の方に視線を向けた。石造りの塔の中を橡蝠守が飛んでいく様子が、視界の端に映っている。2人の少女は肩を寄せ合って、その光景を見つめ続けた。




