そして、それから
「オルテンデの王になると言ったな。具体的には、どうするつもりだ?」
平坦な声。これだけのことが起こっても、ジゼルは動じた様子もなく、姿勢を正して座っている。
「貴様の話から考えれば、父も兄も殺さねば、王にはなれまい。だが、レン様と交わした誓約の内容には、『奇跡の力を人殺しに使わないこと』がある。このまま、この家に居続けても、貴様の望みは叶わない。そうだろう?」
ジゼルとメレディスの目が合う。先に視線を外したのは、メレディスの方だった。
「そうとも限らない、が……」
メレディスは蓮の方に目をやって、不敵な笑みを見せた。
「レンとか言ったな。お前1人で、明日、塔に来い。その方が話が早い。どうしても誰かを連れてきたいなら、その騎士にしておけよ」
その言葉を残して、メレディスは家から出ていった。後に残された4人は、しばらくそこから動けなかった。
「……私、行くわ」
静かになった室内で、蓮が口を開く。
「ジゼルさんと一緒に行くから、大丈夫よ」
「おねえ、ちゃん……」
華が畳に涙をこぼす。ウィリがその背を撫でながら言った。
「レンさんが決めたことなら、アタシは何も言わないわ。でもいいの? カナは、行ってほしくなさそうだけど」
「それでも行かなきゃ。オルテンデの王様が誰になるかなんて、私にだって興味はないけど、あの人を放っておくわけにもいかないもの。それに、あの人が王になるんだったら、それはそれでいいと思うの。私たちがオルテンデに行くことはないんだから、あの人が王位につくなら、自然と道が分かれることになる。でしょ?」
「でも、でも、あの人……お姉ちゃんのこと、気に入ってた。オルテンデに、連れ帰るつもりなんじゃ……」
華がしゃくり上げながら、言葉を発する。蓮は妹が落ち着くのを待って、ゆっくりと話し始めた。
「もし仮に、あの人が私をオルテンデに連れ帰るつもりだとしても。私は、あの人の思い通りにはならないわ。私を信じて、任せてちょうだい」
蓮は笑っている。華は涙に濡れた瞳で、姉を見た。
「じゃあ、約束。あの人としたような、魔法みたいなものじゃなくて、コレで」
華が片手の小指を差し出す。蓮は頷いて、自分の小指を華の指に絡めた。独特のリズムに合わせて、歌いながら手を揺らしているうちに、いつしか、華の涙は止まっていた。魔法の力が働いていなくても、その約束が破られることはない。それは、姉妹にとって特別な約束だから。そのことが分かっていたから、華はようやく安心できた。




