その瞬間に至るまで
翌日。昼を少し過ぎたくらいの時間帯に、メレディスは家を訪ねてきた。玄関の扉が、軽く叩かれる。蓮が扉を開けて、招き入れた。
「こんにちは」
彼は変わらず、穏やかな笑みを浮かべている。
「お話があるとのことでしたね。どうぞ、おあがりください」
蓮の言葉に頷いて、彼は靴を脱いで上がった。
「こんな建物は、オルテンデには存在しないと思いますけれど……驚かないんですね」
今、5人がいるのは、古い日本家屋だ。異世界では珍しいはずの建造物を見て、何の反応もないというのは、少しおかしい。そう思って、蓮は問いかけた。メレディスは笑みを深めて、答えた。
「ええ。……あの召喚魔法の存在を突き止めたのは、僕なんです。古文書には、別の世界から人を呼ぶための魔法だと記されていました。見慣れない建物も、別の世界の物だと考えれば、納得できます」
華がお盆にお茶を乗せて、持ってくる。そして、蓮とメレディスの前に、湯呑みを1つずつ置いた。メレディスは迷うことなく、湯呑みに口をつける。蓮が真剣な眼差しになって言った。
「毒が入っているかもしれないとは、考えないのですか?」
「……ええ。僕を殺す理由なんて、貴女方にはないでしょう? それに、毒には慣れていますから、大丈夫です」
湯呑みの中のお茶を飲んで、メレディスは顔を上げた。
「オルテンデには、産業もなく、神も存在しません。残っているのは、王宮に保管された古文書くらいです。読めるものがおらず、状態も悪い古書。そんなものを好むのは、あの王宮では僕だけでした。ある日、僕はその本を見つけたんです。本に書かれていたのは、異世界から力と知識を持った人を召喚する方法でした。そこには世界を救うなんて、1言も書いていなかった。ですが、それでは実行の許可が下りません。だから僕は、嘘をついたんです。……役立たずの宰相とその取り巻きたちに追い出されなければ、貴女方と最初にお会いするのは、僕のはずでした。まったく、彼らも余計なことをしてくれたものです」
華が目を見開いて、固まった。ウィリが華を守るように抱えこんで、メレディスの方に視線を向ける。ジゼルが立ち上がりかけて、蓮に視線で制された。蓮は平静を保ったまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……それで? あなたは私たちに、何をさせようとしていたのですか?」
「大したことではありませんよ。滅びに向かうだけの国をひっくり返す、その手伝いを頼みたかっただけです」
メレディスの口調は穏やかだったが、その目は全く笑っていない。そのことから彼の本気を感じ取って、蓮は気を引き締めた。




