蓮の心
赤く染まった世界を見ながら、蓮はずっと考えている。妹と2人で、穏やかに生きていたいだけ。でも、そのためには、やらなければならないことがある。
「……ジゼルさん」
歩きながら、話しかける。蓮よりも背が高い、大人の女性。彼女はいつも、蓮のことを優先してくれる。今もそうだ。蓮の後ろを歩いていたその人は、すぐに言葉を返してくれた。
「はい。なんでしょうか、レン様」
「ジゼルさんは、騎士ですよね。騎士が誰かと戦う時は、正々堂々と、正面から向かい合うものだと思います。……今、私がやっていることは、それとは真逆のことですから。もしかしたら、ジゼルさんは、嫌いかなって……」
「そうですね。確かに、レン様の戦い方は、私にとっては苦手なことです」
ジゼルは嘘をつかない。そういう性分なのだろう。隠し事もできない、不器用な人。けれど、蓮は知っている。それは、誰よりも誠実で、信頼が置けるということと同義だ。
「策を練り、戦わずして勝つことは卑怯なことだと。そう思う気持ちは、今もあります。ですが、それが必要な時もある。今が、その時なのでしょう」
ジゼルは、感情を表に出さない。いつも通りのことなのに、それがひどく不安を煽る。蓮は息を詰めて、彼女の言葉に耳を傾けた。
「私は騎士ですが、貴族の間で行われる駆け引きについても、ある程度は理解しています。それぞれの国の事情についても、同様に。貴女は、この世界で生まれ育ったわけでもないのに、そのことを理解していらっしゃる。その上で、生きるために戦っている。その方法が肌に合わないなどと、そんな理由で、貴女の戦いを否定することはしたくない。私は、そう思っているのです」
蓮は、詰めていた息を吐いた。
「ありがとうございます」
蓮が大切にしたい人。今は、妹の他にも2人いる。ジゼルとウィリだ。この世界で知り合った、大切な友達。そして。
「ずっと、考えているんです。ジゼルさんに、主になって欲しいと言われた時から。ジゼルさんの主として相応しい言動って、何だろうって……」
「レン様」
ジゼルの表情が和らぐ。
「貴女は、貴女らしく生きてくださればいいのです。私は、ありのままの貴女に、仕えたいと思ったのですから」
「ありがとうございます」
ジゼルがそこまで言ってくれる理由は、蓮にはどうしても分からない。お姫様に相応しいのは、華の方だ。元の世界でだって、華を可愛がる人はいても、蓮が同じように扱われることはなかった。姉妹の扱いに差をつけなかったのは、親だけだ。それでもどちらかが優先されるようなことはなかったから、蓮はそういうものなのだと思っていた。それに、大好きな妹が誰からも愛されるのは、蓮にとっても嬉しいことだった。だから、こんなことは初めてで。どうしていいか分からなくて。蓮はずっと、迷っている。今日も、それ以上のことは聞けなくて。蓮は結局、華を探すことに意識を向けたのだった。




