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服を買う

とぷん、とぷんと、水に物を沈めるような音がする。鮮やかな青色の道の先に、ここに来るときに通ったのと同じ形の門が見えた。(かな)を抱き上げたジゼルが門を通り、(れん)もその後に続く。外に出るのと同時に、今通ってきたはずの道は消えて、後には何も残らなかった。水の道から完全に抜けて、立っている場所が水面ではなく硬い床に変化する。そのことを確認したジゼルが、華を地面に下ろした。水中を歩いてきたはずなのに、服も髪も濡れていないことを意外に思いながら、姉妹は周囲を見渡した。そこは、石造りの壁に囲まれた室内だった。


「何かと思えば、お前さんか。見慣れん娘を連れているが、また孤児を拾ってきたのか?」


「……まあ、そのようなものだと思ってくれ。革製のローブを2着と、大きめの帽子を2つ。そこの子供たちが好きな物を、選ばせてやってくれ。その間に、私は金を工面してくる」


部屋の隅で揺り椅子に座っていた老人が、椅子ごとこちらに振り向いた。老人はジゼルの話を聞くと、すぐに立ち上がって、側にあった扉を開けた。扉の向こうは暗くなっていたけれど、老人は全く気にせずに、その奥へと消えていった。


「お聞きになったかもしれませんが、私は少しの間、ここから離れます。ご心配なく。彼は無愛想ですが、けして悪人ではありません」


ジゼルは蓮に向かってそう言って、老人が消えたのとは違う方向にある扉を開けた。明かりが差し込んで、扉の向こうの光景が僅かに見える。人が、行き交っている。


「大丈夫よ、華。ここはきっと、服屋さんだから」


蓮の言葉に、華が頷く。老人が、沢山の布を抱えて、戻ってきた。


「ここには、旅をするための物しか置いとらん」


それだけ言って、大量の布を投げ渡す。そして老人は、再び揺り椅子に座った。蓮は投げられた布を何とか受け取って、華と目を見合わせた。


「……お姉ちゃんは、どの色がいい?」


ローブと帽子。鮮やかな色味の物は1つも無いのに、妹は何故か目を輝かせていた。


「……私は、この黒い服にする。汚れも目立たないし……」


「私も!」


華はいつもそうだった。お姫様みたいに可愛い服が好きで、彼女にはそんな服も似合うのに。蓮がそういう服を好まないという理由だけで、自分も着ないと言い張る。


「そっか。じゃあ、この黒いローブと帽子にしよう」


同じ服を着たとしても、華の方が可愛いという事実は変わらない。いつだって比べられて、蓮は俯いてばかりだった。この服でも、それは同じ。だけど、今は状況が違う。自分たちは追いかけられているのだから、目立たない服の方がいい。可愛くなくても、似合わなくても、その服でなければならない明確な理由がある。だから、華と同じ服を着ていても、蓮はいつものような居心地の悪さは感じなかった。

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