転機
2日後。オルテンデから、その人は来た。
「初めまして。僕は、メレディス・カター・オルテンデと申します」
その人は、気が弱そうな青年だった。島の東側に着いた船から、小さな荷物を抱えた彼が降りてくる。4人は彼を出迎えて、塔まで案内しようと歩き出した。
「オルテンデを姓に持っているということは、あなたは王家の方なのですね」
道中で、蓮が口を開く。彼は苦笑を顔に浮かべて、頷いた。
「ええ、まあ。妾腹の第3王子で、王位を継ぐことも許されていないような者ですが」
「でも、それでも。聖女の見張り役においては、あなたが適任だと判断されたのでは?」
「まさか。父が僕に期待したことなんて、一度もありませんよ。……こんなことは本来、お話する必要もありませんが。オルテンデのお偉方が、揃いも揃って『行きたくない』と主張したのです。ですが、誰かは向かわせねばならない。だから、僕だったんですよ。僕なら、ここで死んでも、惜しくはないと」
「死ぬだなんて、そんなことはあり得ません。ここはとても穏やかで、時間の進みが遅い場所なのですから」
「オルテンデで繁栄を謳歌することばかり考えている方々にとって、ここで長期間過ごすことは、死ぬのと同じくらいの苦痛なのでしょう。僕は、少し楽しみにしているんですけどね。聖女様も、とても優しそうな方ですし……」
「それはどうでしょう。私、あなたが思うほど、優しい女にはなれないかもしれません。だって、ほら」
蓮が足を止める。目の前に、質素な佇まいの塔が見える場所で。
「今だって、この寂れた塔を、あなたの住居として紹介しようとしていますから」
「確かに、飾り気のない場所ですね。でも、僕はとても気に入りました。静かで、頑丈そうだから。それに、僕のことを心配してくださるあなたは、やっぱり優しい人だと思います」
華は内心、不思議に思った。姉は、わざと距離をとろうとしている。テオバルトを案内した時には、こんなに警戒していなかったのに。メレディスにこんな態度をとるのは、彼がオルテンデの王子だからなのか、それとも。
(お姉ちゃんは、この人が見た目通りの人じゃないのかもって、思ってる……?)
なんとなく、後者のような気がして。華はウィリと繋いだ手を、強く握りしめた。ウィリが気づいて、握り返す。メレディスはゆっくりと、塔に向かって足を進める。
「失礼します」
「いらっしゃい。オルテンデから来るのなら、きっと君しかいないだろうと思っていたよ」
塔の中から声が聞こえる。メレディスとテオバルトの話し声だ。2人は、顔見知りであるらしい。気にはなったが、立ち聞きは失礼にあたるだろう。4人は4人ともそう判断して、その場を離れた。




