騎士親子、塔にて
4人はテオバルトと共に、神殿から北東の方角に向かって歩いた。少しして、島の北端に到着する。蓮はそこで足を止めて、呪文を紡いだ。
「Altam turrim《高き塔は、天に届く》」
周囲の石が集まって、積み上がっていく。やがて、何もなかった場所に、塔が建てられた。それは飾り気の無い、見張り塔のように見えたが、テオバルトは気に入ったようだった。
「ふむ。聖女というのは、こんなこともできるのか」
そう言いながら、彼は塔の中に入る。その姿が完全に見えなくなったことを確認して、蓮はジゼルに声をかけた。
「……ごめんなさい、ジゼルさん。仕方がなかったこととはいえ、勝手に決めてしまって……。ジゼルさんにとって、お父さんが居るところで暮らすのは、負担になるのに」
「何を仰るかと思えば、そんなことですか」
ジゼルは蓮の不安を、笑いとばした。
「確かに、父との間には確執があります。ですがそれは、些細なこと。レン様の判断は、間違いではありません。オルテンデから送られてくる者について、何も分からないのであれば、せめて。セルフォス側の選択には、介入すべきです」
「……それは、でも、ジゼルさんのことを考えていないやり方で……」
「不要です。……レン様。私は、貴女の騎士です。そのように心を決めたのですから、同じ島に父親が住むというだけで、揺らぐことはありません」
ジゼルが蓮の手を取って、ごく自然に跪き、手の甲に軽い口づけを落とす。彼女はすぐに顔を上げて、鮮やかに笑った。
「貴女は、ただ私を信じて、任せてくだされば良いのです。そうしてくだされば、私は何があっても、誰が相手でも戦えるのですから」
蓮は目を見開いて、次いで真剣な表情になって頷いた。
「……はい。ありがとうございます、ジゼルさん。信じて、います」
華が目を輝かせながら、2人の話を聞いている。ウィリは呆れたような表情を浮かべて、近くを飛んでいる橡蝠守に目をやった。
「全く、余計なことばかり気にするのね。アートも、そう思わない?」
橡蝠守は我関せずといった様子で、その場から離れていく。それと同時に、塔の中を一通り見て回ったテオバルトが戻ってきた。ジゼルが何事もなかったかのように立ち上がって、向かい合う。
「では、私たちはここで失礼します。何かご用件がある時は、島の南にある建物まで訪ねてきてください」
「ああ。お前に言われなくとも、そうさせてもらうつもりだったさ」
明らかに棘のある、ジゼルの言葉。だが、テオバルトは気を悪くした様子もなく、鷹揚に笑って頷いた。




