長話
「……その宣言は、どこで行うのですか? セルフォスで……?」
華がウィリの後ろに隠れながら、顔だけ出して質問した。ジゼルの父は、笑みを崩さずに、首を横に振った。
「いいや。私には、そんなつもりはないよ。王からは、セルフォスに連れてきてくれと頼まれているがね。会談も宣言も、この場所……エピナル湖で行えばいいだろう。聖女が直した水の神殿なら、皆が納得するはずだ」
「それは……そうできたら、助かります。でも、いいんですか? その、あなたが王様から怒られたり、とか……」
「そんな心配は要らないさ。私と王は、幼い頃からの友人でね。私から進言すれば、王は聞き入れてくれるだろう」
華と男の会話を聞きながら、蓮はジゼルを盗み見た。ジゼルは、どこか落ち着かない様子で、壁に寄りかかって立っている。
(お父さんと、あんまり仲良くないのかな)
蓮には、目の前にいる男の人が悪い人だとは思えない。何か、事情があるのかもしれないが、さすがにそれについて聞くことは出来なかった。
「お姉ちゃん、どうしよう」
男と話していた華が、蓮の方に顔を向ける。
「あのね。この人はどうしても、お姉ちゃんに話をしてほしいみたい。この人はテオバルトさんっていう人で、セルフォスの王様と仲が良いらしいの。それで、セルフォスの王様とオルテンデの王様を、ここに呼びたいんだって。そうしないと、困ることになるって……」
「ええ、分かってるわ、華。大丈夫よ」
蓮は華を安心させようと、笑ってみせた。そして、テオバルトの方を見る。
「テオバルトさん。私は、聖女ではありません。神殿を直したのも、神様のためなんかじゃなくて、エピナル湖で暮らす理由が欲しかっただけなんです。ここなら、4人で穏やかに暮らせると思った。でも、そうじゃないのなら。私は、ここを出ていきます。帝国が崩れかけている今なら、南の港から船に乗る人も多いはず。その人たちと一緒に、この大陸を離れれます」
テオバルトが真剣な表情になる。セルフォスの軍では、北の港は封鎖できても、南の港は難しい。4人が南の港から船に乗れば、4人はここから脱出できる。
「……なんて。そんなことをするつもりは、ありませんけれど。テオバルトさん。セルフォスとオルテンデ、双方の王様に、私の言葉を伝えてください。『水の神殿で、聖女が待っている』と」
このまま見捨てていくことはできない。そんなことをしてしまえば、この大陸が騒乱に巻き込まれることは分かりきっている。蓮は最初から、この話を受けるつもりだった。ただ、言われたことをそのまま受けるよりは、多少なりとも駆け引きしたほうがいいのではないかと。そう思っただけだった。




