逃走
『アリガトウ』
木の葉が揺れて、精霊たちの言葉が聞こえる。
『デモ、ミンナ、キヲツケテ』
『オシロカラ、イロンナコエガキコエルノ』
『ココニイチャダメ』
『ニゲテ、ニゲテ』
ウィリが真剣な表情になる。
「ジゼル」
「ああ。急ごう」
ウィリが地面に手を当てる。その場に、小さな穴が開いた。人が一人通れるくらいの大きさの穴に、ウィリが橡蝠守と共に、その穴の中に落ちていく。華と蓮がその後を追って、穴に落ちた。ジゼルが最後に下りてきて、天井がふさがる。精霊の声も聞こえなくなって、その場が静寂に包まれた。
「……大丈夫、かな。せっかく神殿が直ったのに、お城から追手が来て、また壊されたりしたら……」
蓮が天井を見上げて、口を開いた。
「やっぱり、残るべきだったんじゃ……」
「レンさんは何も気にしなくていいわ。あの子たちだって言ってたでしょ。神殿が壊されることは、大したことじゃないって。地の精霊は、そういう性質なの」
ウィリは笑顔で言った。
「地は穏やか、風は気まぐれ、水は勝手で火は苛烈……なんてね。それは当然のことだし、帝国が何をしたって変わらないの。だって、世界ができた時から、そうだったんだから」
「そう、なんだ。……そっか、精霊は住処がなくなっても、消えるわけじゃないんだ。あ、でも……」
華は考え込むような顔になって、呟いた。
「じゃあ、どうして世界のバランスが崩れてたの? 帝国が原因じゃなかったの?」
「知らないわよ、そんなの。ま、推測できないこともないけど……。魔法が使えなかった理由でしょ? あの皇帝が地の力を使って、土地や精霊を弱らせてたとか、そんなところじゃないかしら」
ウィリが華の疑問に答える。それが真実かはわからない。けれど。
「私たちが来たせいで、地の精霊さんに迷惑をかけちゃったのかなって、ちょっとだけ思ったの。だから、ウィリちゃんが大丈夫だって言ってくれて、良かった」
華が安心したような笑みを見せる。蓮も、同じ気持ちだった。ウィリは気恥ずかしそうにしながら、先へ進む道に足を踏み入れた。
「あのね。わざわざ、お礼を言わなくていいから。そんなに大したことじゃないし……」
「ウィリちゃんにとってはそうでも、私たちにとっては大きなことだよ」
「……あのね!! だから、そういうのを止めてって言ってるのよ!」
耳を真っ赤にして、ウィリが華に詰め寄る。それでも、華は不思議そうにするだけだった。蓮とジゼルは微笑ましい気持ちになって、2人の言い合いを少し離れたところから見守っていた。




