表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/83

水の道

青い扉を通り抜ける。それはまるで、水の中に飛び込むような感覚で。姉妹は反射的に、目を閉じて、息を止めた。


「大丈夫ですか?」


ジゼルの心配そうな声が、隣から聞こえてきた。(れん)は、ゆっくりと目を開けた。周囲の全てが青く澄んだ水に包まれて、外界と遮断されているのに、不思議と窮屈さは感じない。下を見て、蓮は目を見開いた。


「水の、上……?」


柔らかく沈みこむ、青色の地面。歩けば波紋が広がって、まるで水面に石を投げた時のようだった。


「精霊の道を通るのは、初めてなのですね」


ジゼルが蓮に、手を差し出す。


「どうぞ、お手を」


「いえ、私は大丈夫です」


蓮はその手を断って、(かな)に声をかけた。


「華、行こう?」


華は答えない。目を閉じて、その場でずっと立ち止まっている。華は泳げない。だから、水が怖くて動けないのだろう。蓮はその事を知っていたから、華を安心させようと、声をかけ続けた。


「大丈夫だよ、怖いことも苦しいことも、ここには無いから。ほら、目を開けてみて」


「……お姉、ちゃん……?」


華がゆっくりと目を開ける。


「そうだよ。華、ここは息もできるし、目も開けられる。だから、大丈夫なんだ」


華が頷く。


「……うん。凄いね、ここ。水の中だけど、水の中じゃないみたい」


華は、まだ少し怖がっている。無理もない。この青く光る道の上に立っているだけで、水に触れているような感覚になるのだから。


(でも、このままじゃダメだ。華が動けないと、先に進むことは出来ない。何とかしなくちゃ)


蓮がそう思ったのと同時に、ジゼルが動いた。


「失礼します」


短い言葉と共に、華の体を抱き上げる。それはまるで、王子様がお姫様を抱えるように。華の首を右腕で、閉じた両足を左腕で支えている。


「ジ、ジゼルさん?!」


華が驚いて、ジゼルの腕から逃れようとした。けれどジゼルは華を離さず、歩き出す。


「その様子では、この道を歩くのも大変でしょう。私がお運びしますから、大人しくしていてください」


蓮は驚きで固まっていたけれど、その言葉を聞いて、慌ててジゼルを追いかけた。


「お姉ちゃん……ど、どうしよう。どうしたらいいの?」


「華が気にするのも分かるけど、ここから出るまでは、ジゼルさんに抱えて運んでもらわなきゃ。それに、華は小さくて可愛いから、きっと迷惑にはならないよ」


華は少し怒ったような顔になった。


「……私とお姉ちゃんは、そんなに変わらないでしょ。だからお姉ちゃんだって、迷惑にはならないよ」


「そうですね。私は鍛えていますから、遠慮なく任せてください」


蓮は困ったような顔になって、頷いた。自分と妹は違う。自分は妹のように可愛くないから、お姫様にもきっとなれない。そんなことは知っていたけれど、それでも二人の言葉が嬉しかったから。蓮は何も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ