外へ行く
橡蝠守が映し出した森は、どこにあるのか。
「帝国領なのは間違いないと思うわ。それでも、行くのね?」
ウィリが真剣な表情で問いかける。華がウィリの目を見つめて、言った。
「うん。そこに行けば、ルナちゃんの記憶も戻るかもしれないから」
「そう言うと思ったわ。舟を作って、湖を渡りましょ」
「……ウィリちゃんも、来てくれるの?」
「アタシとアートが行かないと、どこだか分からないでしょ」
ウィリは笑って、言いきった。蓮は詰めていた息を吐いて、ジゼルを見た。ジゼルは、太めの木の枝を銀の糸で縛って、いかだを作っていた。ルナは感情のない瞳で、それを見ている。蓮はその隣で、ジゼルの作業が終わるのを待った。やがて、いかだが完成する。5人はジゼルの後を追って、光の壁を通り抜けた。湖面に、いかだが浮いている。帆が無い、いかだ。けれど、それは5人が乗った瞬間に動き出した。蓮は、ジゼルの方を見た。彼女は片手の指を見せないようにしていたが、蓮は迷わず近づいて、その手を取った。蓮が思ったとおり、その指には真新しい切り傷が付いていた。
「……ジゼルさん。どうして、隠したんですか?」
蓮は、平成を装って聞いた。ジゼルは、蓮の目を見ないようにしながら、口を開いた。
「お見せする必要はないと、判断しました。レン様のお手を煩わせるほどのことではありません」
「前に、言いましたよね。私のためにしてくれたことをそのままにしておくのは、嫌だって。私はジゼルさんのことが好きなんです。ジゼルさんは戦う人だから、きっとこれからも傷つき続ける。騎士でありたいと願うジゼルさんの体には、これからも傷が増えると思います。私は、ジゼルさんが騎士として生きることを否定はしません。でも。ジゼルさんの主は、私です。私が選んだ道が戦うための道だから、ジゼルさんは傷を負うことになるんです。そんなことも分からないほど、私は子供ではありません。私は傷は負わないけど、でも、主だから。その責任だけは、負わなければならないんです」
蓮は喋りながら、傷の手当をした。ジゼルがゆっくりと、蓮の方に視線を向ける。そうして彼女は、心からの笑みを見せた。
「ありがとうございます。……本当に貴女はいつも、騎士としての私を否定せず、主として振る舞ってくださる。貴女は、騎士を持ちたいなどと願ったことは、無いでしょう。私が願うことを、ただ叶えてくださるだけだ。そんな貴女に、私は何をお返しすることができるのか……」
「ジゼルさん。お返しなんて、要りませんよ。だって、私は私の意志で、ジゼルさんの主になることを選んだんですから。主になるのはそういうことだって、私は最初から分かっています。分かった上で、選んだ。だから、これは当然のことなんです」
蓮は笑顔で、そう告げた。ジゼルは無言で、蓮の前に跪いた。




