お風呂(後編)
お風呂から上がったウィリに、華がタオルを渡す。ウィリは、渡されたタオルで体を拭いた。橡蝠守が棚を見て、小さく鳴いた。
「……カナ。これは、何?」
ウィリが手に持ったのは、彼女にとっては見慣れない形の服だった。華がその服を見て、口を開く。
「Tシャツだよ。ウィリちゃんが前に着てた服は汚れてるから、洗って干したほうがいいと思ったんだけど……」
「そこまでしなくていいのに。でも、ありがと」
ウィリは華の手を借りて、Tシャツを着た。少し大きめのその服は、思ったよりも着心地が良かった。服を着替えた少女たちは、手を繋いで脱衣所から出る。広い部屋を経由して、畳が敷いてある部屋へ向かう戸を開ける。蓮が2人に視線を向けた。
「お姉ちゃん、次どうぞ」
「うん。ありがとう、華」
短い会話を交わして、蓮が立ち上がる。
「ジゼルさん、ルナちゃん。私たちも」
蓮の言葉を聞いたジゼルが頷いて、ルナを促して共に立つ。3人はそのまま、脱衣所に向かった。ルナが落ち着かない様子で、周囲を見回す。蓮はルナが迷わないように、手を引いて先導した。脱衣所の戸を引いて、中に入る。蓮は服を脱いで、籠に入れた。そのまま、流れるような手つきで、新しい服を用意する。ルナがドレスに手をかけたまま、固まった。
「……すみません。どなたか、手伝っていただけますか?」
「私が手伝おう。そのまま、動かないようにしていろ」
ジゼルはそう言って、ルナが着ているドレスに触れた。蓮がルナに言葉をかける。
「大丈夫よ、ルナちゃん。ジゼルさんは、優しい人だから」
「……はい」
ルナは硬い表情のまま、頷いた。ルナのドレスを脱がせたジゼルは、形を崩さないように畳んで、棚に置いた。
(余計な物は、持っていないな。警戒し過ぎたか……? いや、しかし……。これだけ豪奢なドレスを着ていて、何も持っていないのも、おかしいか)
ルナの持ち物は、ドレスだけだった。女性用の短剣どころか、装飾品すら持っていない。それを確認して、ジゼルは目を細めた。蓮がルナと手を繋いで、浴室に向かう。ジゼルは思考を止めて、その後を追った。浴室にいた蓮が、入ってきたジゼルにタオルを渡した。蓮はそのまま別のタオルを取って、ルナの体を洗う。ルナは抵抗せず、泡に包まれた。ジゼルは湯を汲んで、指で温度を測った。
(丁度いいな。ウィリとカナが先に入っていたはずだが……温度が下がらないような仕組みにでも、なっているのか?)
浴槽も、湯を注ぐ口も。見たことのない作りであるのは変わらない。どんな仕組みになっているのかは、ジゼルには分からない。この建物を壊したとしても、仕組みまで再現されてはいないだろう。そんなことを考えながら、ジゼルは渡されたタオルで体を洗った。蓮がルナの体を洗い終えて、その後に自分の体を洗う。ルナが外に出ようとして、蓮に止められた。
「まだ終わってないよ、ルナちゃん」
ルナが首を傾げる。ジゼルは湯が張られた浴槽を見ながら、言葉を発した。
「体を洗うために用意されたにしては、量が多いですね」
「うん。これはね、お湯に浸かるための場所だから」
「なるほど。南の島国には、似たような習俗があると聞きますが……」
そこで言葉を切って、ジゼルがルナを見る。ルナは、どうしたらいいのか、分かっていないようだった。ジゼルは、体についた泡を湯で流してから、浴槽に入る。それを見て、ルナは怖がりながらも、同じように浴槽に入った。少しして、その表情が柔らかくなる。一部始終を見ていた蓮は、ルナが幸せそうにしていることに、心から安堵した。




