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精霊の道

「ここは、フェルセンの森です。北と南の双方に、東西に伸びる街道が通っています」


ジゼルは、拾ってきた枝で地面に絵を描きながら、説明した。円形に近い、大きな森。その上と下の外側に、森に沿()うように、緩く湾曲した道が描かれている。


「この道を通るの?」


「いいえ。私が、あの暗殺者を追い返したことは、既に依頼主にも伝わっているでしょう。それが、オルテンデ王国の中枢にいる者であるのなら。下手に街道に出るのは、避けるべきです」


(かな)の問いかけに、ジゼルが答える。


「それに、この姿は目立ちすぎます。私もそうですが、レンさんとカナさんが着ている服は、特に。お二人は、森の外に出るのなら、着替えるべきでしょう」


「服? ここに、服屋さんがあるの?」


華の驚きは当然だ。人が立ち入らない森の奥に、人のための衣類を売っている店があるとは思えない。そんな思考を読み取ったのだろう、ジゼルは笑って言った。


「ここは、精霊が()む森です。精霊たちに認められていなければ、この泉まで辿り着くのも難しい。その証拠に、これほど長く話していても、やって来たのはあの暗殺者だけだったでしょう?」


華が目を丸くする。


「すごい……! まるで、絵本の中の世界みたい! ね、お姉ちゃん!!」


はしゃぎながら、(れん)に声をかける妹に、蓮もぎこちない笑みを浮かべて頷いた。


「そうね」


ジゼルは、そんな姉妹を優しく見守りながら、話し始めた。


「ですから、森を出ると言っても、通るのは街道ではありません。精霊の道です」


ジゼルが鎧を脱いで、泉の水に両手を(ひた)す。


「Aperi portam Porta est ab aqua spiritu creata,terra spiritu conservata《水の精が創り、地の精が護る門を開く》」


呪文を口に出しながら、ジゼルは両手をゆっくりと引く。その手が、何かを掴んでいた。青く光る、大きな扉。それは金属のような光沢がある材質で造られていて、水の中にあったというのに、全く錆びていなかった。ジゼルが扉から手を離すと、扉は水面の上で自立して、自動で開いた。扉の中央から水色の光が伸びて、泉の縁に届く。ジゼルは光の上に立って、蓮に手を伸ばした。


「さあ、こちらに」


蓮は、驚きで固まっている華を連れて、光の上に立った。足元はしっかりしていたけれど、華は怖がって、蓮の側から離れようとしなかった。


「……鎧は、いいんですか?」


泉のほとりに置いたままの鎧を見て、ジゼルは少し寂しそうに微笑んだ。


「ええ。精霊は、金物(かなもの)を嫌いますから」


そう言われてしまえば、蓮も黙るしかない。ジゼルは蓮を安心させるように、その頭に軽く手を置いて、言った。


「思い入れはありますが、人の命を守るために手放すのであれば、それは運命なのでしょう。ですから、気にしないでください」


そうして、3人は泉の上に出現した門を通って、森の外へと向かったのだった。

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