お風呂(前編)
服を脱いで置いておくための棚の前で、ウィリが戸惑ったように立ち尽くす。橡蝠守が彼女の肩に止まって、小さく鳴いた。華には、その声の意味は分からない。けれど。
「ね、ウィリちゃん。もし、どうしても嫌なら……」
「……嫌なわけじゃないわ。ただ、どうしていいか、分からなかっただけ」
ウィリはそう言って、着ていた服を脱ぎ捨てる。小さな体には、無数の傷跡があった。切り傷や痣、火傷の跡まであるのが目に入って、華は息を呑んだ。
「何?」
ウィリが目を細めて、聞いてくる。
「言いたいことがあるなら、言って。隠される方が気分悪いし」
華は目を逸らして、口を開いた。
「……痛く、ないの?」
「別に。もう治ってるし。……アタシの体のことなんて、気にしなくてもいいでしょ」
「気になるよ。だって、痛そう、だから」
「…………そうね。痛かったわ。でも、今は痛みはないの。傷の跡が残ってるだけ。だから平気よ、アタシ」
「そう、なんだ」
華は戸惑いながら、服を脱いだ。そうして、立ったままのウィリの手を引いて、お風呂場に繋がる戸を引く。その向こうから漏れた湯気が、少女たちの体を包む。
「じゃあ、これからは。ウィリちゃんが痛いと思うことは、起こらないよね」
華は、はっきりとした声で言った。ウィリは下を向いて、苦笑いした。
(ホントに、もう。カナは、気を遣いすぎなのよ)
言いたいことも、伝えたいことも。きっと、もっと、たくさんあった。それでもそれを飲みこんで、言葉を選んでくれている。それが分かったから、ウィリは何も言わなかった。橡蝠守が、ウィリの頭の上に下りる。
「ウィリちゃん。タオル、用意してるから。遠慮なく、使ってね」
華が柔らかい布を、ウィリに渡す。布の温かさに、ウィリの表情が和らぐ。
「ありがと」
短く返して、傷だらけの体を拭く。華は白い塊を、湯を張ったタライに漬けた。その手の中で、白い泡が膨らむ。
「次は、ウィリちゃんね」
泡だらけの塊を渡されて、途方に暮れる。華を見れば、彼女は泡で体を洗っていた。見よう見まねで、体を洗う。華は浴槽から新しい湯を掬って、体にかけた。
「……ねえ、大丈夫なの? そんなに、お湯を使っちゃって」
「うん。お湯は、たくさんあるから。体を洗ったら、一緒に入ろ? 気持ちいいんだよ、お風呂って」
華の言葉の意味に気づいて、ウィリは目を見開いた。華は気にせず、浅いタライに湯を張る。橡蝠守がそのタライに近づいて、羽を開いたままで入った。橡蝠守の体が、半分だけ湯に浸かる。ウィリはそれを横目に見ながら、華に手を引かれて、浴槽の中に入った。
「……あったかい」
ウィリは息と共に、言葉を吐き出した。華が笑顔で、ウィリの手を握る。浴槽の中で、少女たちは湯の温かさに癒やされた。




