家を建てる
「あの……ところでここは、いったい? お家、ですか?」
「うん。私たちはね、最近ここに来たんだけど……どうしよう。ルナちゃんもここで暮らすなら、もっとちゃんとした家にしたいよね」
華が困ったような様子で、蓮に声をかける。ジゼルが作った家は、雨風をしのぐことはできるが、見た目はとても家と呼べるような物ではない。そんなことは、蓮も分かっている。けれど、どうすればいいのかは、分からない。まだルナのことを完全に信用していない様子のジゼルが、少し遠くから監視している。蓮はそんなジゼルに目を向けて、聞いた。
「……あの、ジゼルさん。魔法で家を建てることは、できないんでしょうか」
「魔法で物を作るには、それを構成する要素をすべて入れた上で、その構造を理解していなくてはなりません。ですが、私は家を構成する要素にも、構造にも詳しくはないのです」
ジゼルが困ったような顔をしている。蓮は少し考えて、呪文を唱えた。
「Coniunctio lignorum basis lapidea tectum parietes ostium habet.《石を土台とし、木を組み合わせた物。屋根があり、壁があり、扉がある》」
地面が揺れた。一度だけ、大きく。周囲の光景が歪む。土の地面が石に変わり、軽く組まれただけの木が、しっかりとした柱になる。いつの間にか、4人は大きな日本家屋の土間に立っていた。目の前に、箱の形で作られた上り台がある。華が目を見開いた。
「ねえ、お姉ちゃん。ここって、お祖母ちゃんの……?」
「うん。思い浮かべてた家は、そうなんだ。上手くできたかは、自信がないけど……」
そう言いながら、蓮は靴を脱いで台に上がる。すりガラスで作られた障子を開けると、その向こうには畳の部屋が広がっていた。蓮が部屋の中に入る。華も、その後に続いた。ルナが首を傾げる。
「あの、ここは……?」
「私が魔法で作ってみたの。ルナちゃんも、靴を脱いで上がるといいよ。危険なことは、何もないから」
蓮が笑顔で、ルナに向けて手を差し出す。ルナは首を傾げながらも、2人と同じようにして、上がった。
「お姉ちゃん、私、お風呂を沸かしてくるね」
華が声をかけて、奥に続く扉を開ける。その向こうは台所になっていた。蓮は畳の上に座って、ルナの手を引いた。ルナは落ち着かない様子で、蓮の隣に座る。呆然と立ち尽くしていたジゼルは、そこでようやく理解した。この家は、蓮と華がここに来る前に住んでいたものなのだと。橡蝠守が旋回する。玄関の扉が開いて、ウィリが入ってきた。
「なにこれ。規格外すぎるわよ」
「そうだな。……だからこそ、気をつけなければ。この力が悪用されぬように守るのが、私の役目だ」
「相変わらずね、アンタ。……ま、でも、今はその方がいいか。行きましょ、ジゼル」
ウィリとジゼルも、姉妹に倣って上がる。蓮が笑顔で、それを見ていた。




