戦い(対話)
「……何故、お父様がここにいらっしゃるのですか」
ジゼルの言葉が、蓮の耳に届く。蓮は目の前にいる男の人を見た。ジゼルが以前着ていたのと同じ、白銀の鎧を身に纏って、大勢の人を連れている。男の人が剣を抜いた。ジゼルが一瞬で踏み込んで、その白刃が蓮に届く前に防ぐ。男の人がジゼルを見て、言った。
「ジゼル。私が確信したのは、お前がその子供たちを庇ったからだ。お前は知っているのだろう、その子たちに救世主としての力があることを。だからこそ、守ろうとした。お前は昔から、騎士に憧れていたからな」
ジゼルが顔色を変える。その隙をついて、男はジゼルの剣を弾き飛ばした。
「Bringe Namen und Blut Alberti Sieg meine Hande」
ジゼルがすかさず呪文を紡ぐ。男がその呪文を聞いて剣を引こうとしたが、ジゼルの方がほんの少しだけ早かった。鮮血が散る。ジゼルが男の剣を握って、自らの手を斬ったのだと理解して、蓮は血の気が引いた。火花と閃光が走って、ジゼルが流した血が光を放つ。光の剣を携えて、ジゼルは男との距離を詰めた。再び剣が打ち合わされる。圧されたのは、男の方だった。
「覚悟を決めたか」
蓮には、男が少し笑ったように見えた。打ち合わされた剣の周囲に、風が集まる。晴れていた空が曇って、雷の音が聞こえてきた。男の背後にいた人々が、慌てた様子で距離を取る。ウィリが蓮と華の手を引いて、少し離れた場所に移動した。
「ジゼル。お前とて、分かっているだろう。オルテンデが陥落すれば、次に帝国が目指すのはセルフォスだと」
「そんな理由で、子供に重荷を背負わせるのか」
父娘は剣を振るいながら、言葉を交わす。
「力のない者たちを守るのは、力あるものの責務だ。この世界は今、滅びかけているのだから」
男の言葉を聞いたジゼルが、口を閉ざす。それだけで、蓮と華には分かってしまった。男の言葉は、真実なのだと。
「……それは」
蓮は一歩、前に出た。ウィリが制止しようとして、目を見開く。雷と炎が渦巻く中でも、蓮の体には傷一つ付かなかった。ジゼルと男は、戦いの手を止めて、蓮を見た。
「それは、どうしてですか?」
蓮は男と向かい合って、問いかけた。男は淡々とした口調で答えた。
「地の神殿が失われて、精霊たちはフェルセンの森に逃げた。だが、そこまでだ。帝国はこれまでと同じように、容赦なく森を焼くだろう。そうなれば地の精霊は、水の神域であるエピナル湖に集まる。風の神域である雷雲域は、地の精にとって、良い環境とは言えないからだ。エピナル湖にあるのは神殿だけ。水の神は、自らの民と水の精霊を連れて、大いなる海へと還ってしまった。帝国にとって、エピナル湖は守る者の居ない、攻め落としやすい場所でしかない。地の神殿に続いて、水の神殿までもが失われれば、世界は崩壊する。雷雲域の守りも、永遠ではない。全ての神殿が失われた後に残るのは、帝国が掲げるような理想の世ではない。荒廃し、神の恩寵を失った世界だけだ」




