北の港
窓に掛かった布が開けられて、蓮の顔に朝日が当たる。蓮は目を覚まして、起き上がった。
「ん……お姉ちゃん……?」
隣で眠っていた華が、蓮が起きたことを察知して、身を起こす。
「おはよう、華」
「おはよう、お姉ちゃん」
挨拶を交わして、ベッドから出る。机の上に、人数分の水が張られた石の器が置いてある。2人は並んで顔を洗って、近くに置いてあった真新しい布で顔を拭いた。
「レン様、おはようございます」
布を横に置いたところで、蓮はジゼルに声をかけられた。
「おはようございます。……昨日は、先に寝ちゃってすみません」
「いいえ。私の方こそ、戻るのが遅くなってしまい、申し訳ありません」
お互いに頭を下げあう、少女と騎士。彼女たちを見ながら、ウィリが口を開いた。
「何やってんの。ジゼル、アンタ、時間がないって言ってなかった? そんなこと、してる暇あんの?」
蓮は驚いて、ウィリの方に視線を向けた。ウィリは橡蝠守を連れて、扉の前に立っている。
「時間がないって、どうして?」
「これから、船に乗るから」
「船に? でも、ウィリちゃんは森人の人たちが暮らす集落に行くって……」
「ああ、その話。アタシは最初からアンタたちに着いていくつもりだったから、気にしないで」
「そう、なんだ。じゃあ、船に乗るっていうのは……」
「元々の、アンタたちの目的だって聞いたけど。南の港はマクデブルクの支配下にあるから、北の港から船に乗るんだって、ジゼルが言ってたわ」
「……そっか」
北の港から船に乗るなんて、蓮と華は聞いていない。きっと、眠っている間に、ジゼルがウィリに話していたのだろう。仲良くなれるか、心配だったけれど。
(そんな心配、いらなかったんだ。……良かった)
蓮は笑みを浮かべて、振り返った。背後にいるジゼルは、気まずそうな顔をしていた。
「大丈夫です、ジゼルさん」
そう言って、笑いかける。華がジゼルに近づいていって、その手を取って引っ張った。
「時間がないんでしょ? 行こ!」
ジゼルの表情が和らぐ。部屋から出て、廊下を進んで。この家に来たときと同じように、4人で揃って扉を開ける。煉瓦造りの家々が建ち並ぶ道を抜けて先に進むと、潮騒の音が聞こえてきた。冷たい風が、潮の香りを運んでくる。目の前が開けて、大きな木製の船が何艘も停泊しているのが見えた。港の入り口にいる人に、ジゼルが声をかける。
「船に、乗せてもらいたいんだが」
港の人は4人の顔を見て、首を横に振った。
「すいませんが、あんたらは乗せられません。王宮から、通達が出ているんで」
そう言って、港の人は4人が描かれた絵を見せた。ジゼルが顔色を変える。
「……まさか」
ウィリが舌打ちする。蓮と華は、何が起こったのか分からなかった。4人の後ろから、大勢の人の足音が聞こえてくる。ジゼルが振り返って、目を見開いた。




