特別な力
「カナも、同じことができるのか?」
ジゼルに聞かれて、華は考えた。
「……分からないけど、やってみる」
蓮が作った呪文の音を思い出して、口に出す。
「サーシネス、ミー、マニス?」
それは、古言語ではない。だから、呪文としては正しくない。そのくらいは、蓮にも分かった。華は蓮の真似をしているだけで、言語の意味を理解しているわけではない。華の魔法は失敗する。華以外の全員が、そう思った。けれど。華が差し出した手の先に、蓮のときと同じように穴が開いて、そこからスマホが落ちてきた。
「できた……!」
そうして、華がスマホを蓮に見せて、笑って言う。
「お姉ちゃん、私にもできたよ!」
「……本当ね。すごいわ、華。えらい、えらい」
蓮は驚いていたけれど、華が褒めて欲しいと思っていることを察して、笑みを浮かべて頭を撫でた。華は溢れるような笑顔のまま、撫でられている。そんな姉妹を見て、ウィリも笑顔になった。
「……レン様。その力は、私とウィリ以外には、見せないようになさってください」
空気を切り裂くような、硬い声。姉妹が驚いて、声がした方を見る。ジゼルが険しい表情になって、姉妹を見ていた。ウィリが責めるような眼差しをジゼルに向ける。
「なんでアンタが勝手に決めるの? いいじゃない、別に。誰に見られたって、関係なんかないわよ」
「本当に、そう思うのか? 世界そのものに影響を及ぼせる力を持つ人間が、誰にも利用されないと?」
ウィリが黙る。ジゼルは姉妹に向けて、話を続けた。
「特別な力を持つということが周知されれば、追ってくるのはオルテンデだけではなくなります。力で追っ手を振り払おうとも、それは一時的な安心を得ることにしかなりません。一生、追っ手に怯える日々が続きます。それでは、レン様が望むような、幸せな生活はできません」
姉妹は緊張した面持ちで、ジゼルを見ている。ジゼルは荷物を背負い直した。
「聖女が何なのか、私は存じません。おそらくはオルテンデにのみ伝わる、古い口伝……セルフォスのおとぎ話と同じような物でしょう。そんな物を本気で信じるのは、オルテンデが追い詰められているからです。レン様の力を実際に見なければ、それはただのおとぎ話のままになるでしょう」
蓮が無言で頷く。華がその手を握った。ウィリが橡蝠守を肩に乗せて、華に手を伸ばす。華は空いている方の手をウィリと繋いだ。そうして、姉妹は同時に口に出す。
「分かりました」
蓮と華が顔を見合わせて、蓮が言葉を続けた。
「約束します。ジゼルさんとウィリちゃん以外の人の前で、魔法は使わないと」




