それぞれの思い
「……そうなんだ。でも、それがどうして、お姉ちゃんを連れて行くことに繋がるの?」
華の言葉に、蓮が困り顔になる。ウィリは小声で呟いた。
「だって。……だって、アタシはオーステンデを離れられないから」
ジゼルが目を細める。
「大地の民は、行き場が無いから、か」
華と蓮が同時に、ジゼルの方を見た。ジゼルは、感情を表に出さずに、話を続けた。
「水の神域であるエピナル湖や、火と風の神域である雷雲域と違って、大地の神域は失われている。故郷を失った森人や獣の子供は、奴隷として売られることも多いそうだ。地の祝福を失って、売られた先で与えられる地の恵みに縋らなければ生きられない。彼女も、そうなのだろう」
「そうだよ、悪い? アンタ、セルフォスの貴族なんでしょ。神の血を継いでる高貴な人には、アタシたちの気持ちなんて、分かんないだろうね」
ウィリがジゼルを睨みつける。ジゼルはウィリを無視して、蓮が捕らわれている檻に近づいた。尖っている岩に軽く触れて、岩壁に血を付着させる。
「Gewitterwolken zerbrich den kafig der erde」
ジゼルの呪文に呼応して、彼女が流した血が光を放つ。ウィリが慌てて近づこうとして、飛び散った火花に弾かれる。岩で作られた檻が崩れて、落ちた。
「レン様にお仕えすると決めた時、私は家を捨てた。神の血を継いでいることは、私にとっては意味のないことだ」
戸惑う蓮に手を伸ばしながら、ジゼルが言った。その声は、強い決意に満ちていて。ウィリは俯いて、黙りこんだ。蓮がジゼルの目を見ながら、口を開く。
「……ダメ、です。だって、ウィリちゃんはずっと、苦しんできたのに。今ここで、私が帰ったら、ウィリちゃんは……」
「そうですね。オーステンデには戻れず、フェルセンの森に住むことも出来なくなる。ですが、レン様。彼女を助けるために、貴女が犠牲になる必要はありません。ネストウェズ山脈の北に、森人が暮らす集落があります。彼女を連れて、そこに向かいましょう。マクデブルクの領内から出ることにはなりますが、問題はありません。森人と私の力があれば、並の人間に追いつかれることはないでしょう。その森人……ウィリに、逃げる気があるのならば」
そう言って、ジゼルがウィリに視線を向ける。ウィリは目を見開いて、ジゼルを見ていた。
「なにそれ。アンタ、アタシのこと、嫌いなんじゃないの」
「私の感情に、意味などない。レン様がそうせよと仰るのなら、私は従うだけだ」
ウィリが期待を込めて、蓮を見る。蓮は言葉に詰まって、ジゼルを見つめていた。華には、その気持ちが分かるような気がした。




