地の道
深く暗い穴を、どこまでも落ちていく。湿った土の匂いがする、底なしの空洞。落ちる途中でジゼルの姿が見えなくなって、華は光る鎖を握りしめた。
(大丈夫)
蓮が居ない。それだけで、立ち止まってしまいそうになるけれど。
(ジゼルさんが居るから、絶対、大丈夫)
白い光そのもののような、実態のない鎖。それは、華の体をしっかりと繋ぎ止めている。鎖が伸びる先に、ジゼルは居る。華はそれを信じて、落ち続けた。やがて、真下に地面が見えてくる。ようやく着地できると安堵した、その瞬間。鎖が広がって、網のようになった。網は地面につく前に、華の体を受け止めた。それと同時に、真下にあった大きな岩が動いて、人の形になる。岩の巨人は、小石を払い落としながら腕を持ち上げて、華を掴もうとした。
「させん!」
凛とした声が聞こえてきて、巨人の腕が断ち切られる。岩が崩れて、地響きが起きた。光の刃を構えたジゼルが、華の目の前に現れて、巨人と向かい合った。
「Donner zerstore die Einheit der Erde」
ジゼルが構えた剣から、光が放たれた。巨人を構成する岩の隙間に光が入りこんで、巨人の体が崩れた。ジゼルは、音を立てて崩れ落ちていく岩から片時も目を離さず、真剣な表情で剣を向け続けていた。岩が崩れきって、巨人が動き出さなくなって。ようやくジゼルは、華の方に視線を向けた。
「無事か、カナ」
華は無言で頷いた。あのまま落ちていたら、華は巨人に捕まっていた。それを防いでくれたのは、ジゼルの魔法だ。改めてジゼルを見ると、彼女は光る靴を履いていた。それは華を受け止めている網と同じで、彼女が魔法で作った物なのだろう。地面に空いた穴と、岩の巨人。その2つの共通点は、地属性であることだろう。きっと、蓮を拐った者が得意としているのは、地属性の魔法なのだ。
(でも、それが分かっても……)
対応出来なければ、意味はない。華は周囲を見渡した。そこは、上に戻ることしか出来ない、円形の洞穴だった。
「ジゼルさん。これから、どうしたらいいんでしょうか」
不安そうにしている華に、ジゼルは感情のない瞳を向けた。
「これから、か。そうだな」
呟いて、洞穴の壁際に沿って一周する。彼女が歩いた所には、光の線が浮かび上がって、円が作られた。その円が広がって、洞穴の中が光で満ちる。華は眩しさに目を閉じた。
「カナ、目を開けていいぞ」
ジゼルの声が聞こえて、目を開ける。岩壁の隙間に、巨人の時と同じように、光が走っていた。洞穴の中が先程よりも明るくなっていて、壁に大きな穴が空いていた。ジゼルは網の上に華を乗せたまま、その穴に入っていった。




