プロローグ
麻木華は、まだ子供。
だけど、とても美しかった。
「貴女こそ、我が国が求めていた聖女です」
知らない世界に招かれて、知らない人に囲まれた。それでも彼女は笑って、そうですかと頷いた。
「だったら、私の隣にいる彼女も、聖女ですよね」
彼女は、同い年の少女と手を繋いで、見たこともない模様が描かれた床の上に立っていた。隣りにいる娘は、1人で居るなら十分に可愛らしいと言われる見た目だったが、華と並ぶとどうしても見劣りしてしまっていた。それも理由だったのだろうか、華に問いかけられた人は、真顔で首を横に振った。
「いいえ。その少女はただ巻き込まれただけの、関係のない人物です」
それは、あるいは事実だったのかもしれない。けれど、華にとっては受け入れられないことだった。
「そんなことはありません。彼女は、私の姉です。私たちは、2人で1人。お姉ちゃんが居なければ、私は何も出来ないんです」
華は本気で、そう思っている。何度、他人から否定されようと。何度、姉離れできない妹だと謗られようと。彼女は、己の意見を押し通した。
(相変わらずだなぁ……)
蓮は妹に追いつけない。いつだって、先を歩くのは彼女だった。でも。
「華、逃げるよ」
蓮は妹の手を引いて、走り出した。なんと言おうと、ここの人々が蓮と華を離れさせるつもりなのは明らかだ。そんなところには、居られない。大騒ぎになったけれど、そんなことには構わずに、少女たちは街路を走る。
「お姉ちゃん、どこに逃げるの?」
「街の外!」
「でも、高い壁があるよ!」
街は、石造りの壁で囲われている。東と南にある門は閉じられて、少女たちは行き場を失った。
(大丈夫、きっと、何とかなる)
蓮も、どうすればいいのかは分からない。でも、こういう時、華は迷ってしまって、何も出来なくなってしまうと、知っていたから。
「こっち! この木の箱をよじ登って、そこから家の屋根に乗れる! そしたら、その上を走って、跳ぼう!」
「……分かった!」
蓮と華、違うところが多い姉妹の、数少ない共通点。2人とも、やろうと決めたら迷わずに、勇気を持って踏み出せる。大きな木箱、家の屋根。どちらも、蓮が先に登って、華を引っ張り上げることで、なんとか移動できた。屋根の上は、多少不安定だった。けれど、子供2人の体の軽さがあったから、走ることも可能だった。屋根から屋根へ、更にその先へと、子供たちは走り回る。そして、石壁を越えて、街の外の森へと去っていった。