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モブキャラから見た彼女たち(その1)

   

 王国歴八一三年、蒸し暑い夏の夜。

 王都エンドアの繁華街を一人の若者が歩いていた。


 表通りならば街灯として魔法灯が立てられているだろうが、この辺りは裏通りであり、そうした設備は存在しない。

 とはいえ、安酒場のような店が建ち並んだ区域であり、それらは今まさに営業中。店の入り口や窓から漏れる明かりだけで、夜道を照らすには十分な光量が得られていた。

 店の中からは明かりだけでなく、人々の楽しそうな声も聞こえてくるし、美味しそうな匂いも漂ってくる。そんな中、(くだん)の若者はキョロキョロと、それらの店の看板を見比べていた。


「あった、ここだ!」

 嬉しそうな声と共に、一つの店の前で足を止める。

 扉の上に丸い看板が掲げられており、擬人化された狐の姿が描かれていた。腕を曲げて、いかにも「コン!」と鳴きそうなポーズを見せている。

「ここが噂の『妖狐(ようこ)亭』……」

 そう呟いた若者は、大きく一つ深呼吸。期待に胸を膨らませながら、その店に足を踏み入れた。


 ドアに設置されたベルがカランと乾いた音を立てて、客の来訪を示す。

「いらっしゃいませ!」

「『妖狐(ようこ)亭』へようこそ!」

 店の中から若い女の声が次々と飛んできて、若者は思わず顔がニヤけてしまう。

 入り口に佇んだまま店内を見回すと、満席ではないものの、かなり混雑していた。


 右側の壁際にはキッチンカウンターがあり、その奥には厨房があるらしい。肉の焼ける音と匂いが、そちらから漂ってくる。カウンター越しに、中年男性の料理人がフライパンを握っている姿も見えた。

 男性スタッフは彼だけのようで、ホールで忙しそうに酒や料理を運んでいるのは、全員が若い女性だった。ワンピースに白いエプロンを組み合わせた服装で、エプロンにはたくさんのフリル付き。貴族の屋敷で見かける召使いの格好、いわゆるメイド服とよく似ているが……。

 メイド服ならばワンピース部分は黒や紺色のような落ち着いた色合いになるのに対して、ここの女給たちの場合は、青や緑、オレンジ色など色とりどり。よく見ると、それぞれの髪色に合わせているようだった。

 そして頭に注目すれば自然と目に入るのが、彼女たちのカチューシャだ。全員が全員、ケモノ耳の飾り付きだった。店の名前から考えて、狐の耳のつもりだろう。

 さらにメイド服のお尻の部分に、狐の尻尾みたいなモフモフ飾りが縫い付けられているのも見てとれた。


「なるほど。噂通り、半獣族の扮装なのだな……」

 ニヤニヤしながら、若者は独り言を口にする。

 ちょうどそのタイミングで、スーッと一つの人影が現れて、彼の前に立ち塞がった。

「わっ!」

 驚いて一瞬後退(あとずさ)りするが、よく見たら大丈夫。そこに立っているのは、女給たちの一人だった。


 年齢は二十代後半だろうか。髪の色とメイド服は青色で、サラサラした長髪が美しい。釣り上がった目尻のせいで目つきがキツイ印象も与えるが、それでも目鼻立ちは整っている。

 スラリと背が高く、おそらく百七十センチを超えているだろう。スレンダーな体型も含めて、かっこいいお姉さんというイメージだった。

 しかし彼女は笑顔一つ浮かべず、

「……」

 いらっしゃいませの一言も口にしない。まるで女給失格の態度だ。

 まさか、自分は歓迎されていないのだろうか。もしかするとこの店は、一見(いちげん)さんお断りなのだろうか。

 青い女給から威圧感を感じて、心配になる若者だったが……。


「あらあら、ごめんなさい。この子ったら……」

 その青い彼女をドンと突き飛ばす勢いで、別の給仕が駆けつけてくる。

 身長は百六十センチくらいだから、標準的な体型だろう。今度は緑色だ。

 ふんわりした髪は肩にかからない程度の長さで、顔立ちは少しふっくら。目頭と比べて目尻の位置が下がっているのも――いわゆる垂れ目なのも――、可愛らしく感じる。営業スマイルというより慈愛に満ちたような笑みを浮かべており、まるで安らぎを絵にしたみたいなイメージだった。

「『この子』とは何だ、クローディア。俺とお前は同い年だろう?」

 青い娘が、新しくきた彼女をジロリと睨む。緑の方が少し若く見えるけれど実際には同年齢で、名前はクローディアというらしい。


「ダメじゃないの、スザンナ。お客様には愛想良く。いつも言ってるでしょう?」

 青い彼女はスザンナという名前のようだ。そのスザンナにクローディアが一言釘を刺してから、改めて若者の方へ顔を向ける。

「お兄さん、見かけない顔ですね。このお店が初めてどころか、王都に来てからも日が浅いのかしら?」

「はい、一ヶ月ほど前に田舎から出てきて……。それで、初めてのお給金が出たタイミングで、ちょうどこちらのお店の噂を聞いたので……」

 自分より年上の女性から「お兄さん」と呼ばれるのは少し変な気分だが、こういう店ではそれが普通なのだろう。若者は、また一つ大人の階段を登ったような気がした。

「あらあら、それは光栄ですわ。では立ち話も何ですから、お席の方に……」

 と、ようやくテーブルに案内されそうになったのだが……。

   

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