理想の
三題噺もどき―にひゃくじゅうきゅう。
はたと、目が覚めた。
……書きながら寝落ちしてしまっていたようだ。
ペンを片手に、ノートを下敷きに、こっくりと。
椅子に座っていたものだから、全身がビキビキと音を立てるように痛む。
特にうなじ辺りなんかは、筋肉痛にでもなっているんじゃないかと思うぐらいに、ピキリと痛みが走る。
「……」
ぼうっとする頭のままに、ペンを置く。
見開きの、半分ほどが埋められた小さめのノートを、ぼんやりととらえながら。
―さて、何をしていたのだったかと、何とか頭の中を探る。
「……」
ついでに、全身のコリをほぐすために、ぐっと背を伸ばす。
つい漏れる、痛…という声に少々虚しくなる。それほど年を食っている方でもないのだが、なぜか自分が思っている以上に体は年を食っているように感じてしまうのだ。まぁ、座りっぱなしの状態が続く以上、仕方のない事なのだろうと半ば諦めていたりもする。
そろそろ年か…なんて言いたかないが。年齢を言い訳に逃げることができるような年齢の大人になりたいものではあるなぁと、ふと考えてみたりもする。あまり公言できるような思考ではないが。
「……」
さて、それはまぁ、いずれ何かに落とし込むとして。
今は何をしていたのだったか。
「……」
まだはっきりとは覚めているような感じはしないが、それでも見れば目覚めるだろうと、走り書きのようになってしまっている、ノートの半分に目を通す。
―なんだか、書き始める前から眠たかったのかと思うくらいに、文字がミミズのようになっているのだが。そんな状態で机に座れば、そりゃ寝落ちぐらいするだろう。
まるで、学生の頃に寝こけながらなんとか板書を写していたノートみたいで、なんとなく面映ゆくなってしまった。
こういう所にも、年齢を感じてしまうよなぁ。
「……」
学生のころと、今とでは、年齢の感じ方が全く違うのもなんだか不思議なのだ。
あの頃は、年なんて感じたこともなかったのに。ふざけて年取ったなんて言いあうことはあれど、実質そうだと思ったことなんてなかったように思う。
しかし今はどうだ。
いちいちの行動に、時間を感じて。経過を感じて。どうも感傷に浸りやすくなってしまって。あの頃は、昔は、あの日々はと、そんな話ばかりになってしまう。
「……」
だが、私にとってはそういう思考は不要なものでもない。
むしろ、必要だとも思ってはいる。前向きだろうと、後ろ向きだろうと。
「……」
そいう、思いを、言葉を。
胸の内から、心の器から。
ぽたぽたと。
零れ落ちるその記憶と。
想いと。
言の葉を。
ひとつふたつと、落とし込んでいく。
「……」
簡単なことでもないのだ。
こうして、考え込んでしまう事もあるし。
そのまま寝おちてしまえば意味はないかもしれないが。
それも、それで。
「……」
そうして生まれたこれらが、その後どうなるかはあまり知ったことではない。
誰かに残れとも、刺されとも思ってはいない。海の向こうまで広がれなんて、全く思っていない。それのせいで、人生を変える人間がいるなんて、微塵も思っていない。むしろそういうのは、やめて欲しい。
あなたのそれをみて、人生が変わりましたなんて。人生の責任の一端を背負わされているようで、なんだか気味が悪いし、重いことこの上ない。
「……」
何をひねくれたことをと言われても、そう思う自分も居るのだから仕方がない。そう思わない自分もいるが、そう思う自分の方が大きいのだ。誰だって、小さな多重人格者だろう。
「……」
しかしそれでも、そんな奴が生きているのだと。こんな奴ですら、生きていけているのだと。ならば自分はまだましだと。こんな奴よりうまく生きていけると。救われでもする人が居るなら。
それはそれで、喜ばしいことかもしれない。
「……」
私が書きたい「理想の小説」は、そういうものだ。
そいうことを、書くのだった。
さて、書くことの整理は出来た。
書き落としていくことにしよう。
お題:小説・海の向こう・ぽたぽた