表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い宝   作者: 軒下 奏
1/1

序章

 夢追う人々は皆、青い宝を追い求めていた。その者たちは「シーカー」と呼ばれていた。

 

「なぁ兄ちゃん。俺はさ。大きくなったらシーカーになるんだ!」

「そうかそうか。楽しみだな」

「ぜってぇ青い宝を見つけてさ。みんなをこーんなでっかい家に住まわせてやるんだ!それでさぁ……!」

「さすが俺たちの自慢の弟だな。ははは」


 その夜、少年は意気揚々としていた。少年は、兄が好きだった。

 

「なぁなぁ!兄ちゃんはさ、将来何になりたいんだ?」

「そんなこと聞いてどうする?」

「いいじゃねえか!俺は言ったんだぞ!兄ちゃんが教えてくれないなんて不公平だ……!」

「ははは。悪かった。そうだなぁ……兄ちゃんはなぁ……」


 兄は空を見上げた。少年には、兄が一瞬暗い表情をしたように見えた。


「兄ちゃん……?」


 その声で我に返ったように、彼はまた、弟の方を向き直して言った。

 

「お医者さんかな。すげー知識を身に着けて街中のみんな……いや国中のみんなを元気にするんだ!」

「すげーー! 兄ちゃんすげー!」

「……そうか?」

「そうだよ!俺は国中なんて考えてなかった……あっ!いいこと思いついた!」

「どうした?イノリ」

「俺は……青い宝を見つけてさ……!」


 

「……ははは。さすが俺の弟はスケールが違うな。」

「兄ちゃんに負けたくねぇからな!」

「お!言うじゃねえか。じゃあどっちが早く中心街に着くか競争だ!よーいどん!」

「あ!ずりーぞ!兄ちゃーん!」


 

 翌日の朝、兄は死んだ。それは、急なことだった。兄を知るすべての人にとって――。


「おい小僧!早く酒をもってこい」

「はい……」

――ガッシャーン!

「なにやってんだ。この使えないクズが!」

「……す、すみません」

「なんだと?聞こえねぇな」

「……すみません」

「おい。お前。ちゃんとこっち見て謝れっていってんだよ」


 男は、店中に鳴り響く音で少年を床に殴りつけた。


「うっ……」

「おいおい。殴ることはないだろ。――なぁ小僧。お前も大変だよなぁ。優秀だった兄貴が死んで、両親はあのざまだ。さぞかし大変だろう?」

 

「……い、いえ。僕がやるしかないので」


 すると、少年を蔑むような目つきで、その男は彼を見下した。

 

「そうかそうか。僕がやるしかない……か」

「……な、なんですか」

「……お前に、お前の兄貴の代わりが務まるとでも思ってんのか?」

「……え?」

「あの人は、俺たちの憧れの人だった。はみだし者の俺たちにも、平等に接した。お前が、あの人の弟だ? なにかの間違いだろ? そうだよなお前ら?」


 店中の男たちは、少年をあらゆる言葉で貶し、あざ笑った。

 

「そのとおりだ。俺たちは、アオイ兄さんからすべてをもらった」

「そのアオイ兄さんの弟が、こんなみっともないガキでたまるかって言ってんだよ」


 今度は別の男が、少年の腹を蹴り上げた。彼はただ、うずくまることしかできなかった。


 

 しばらくして、階段のきしむ音とともに、細身だが、眼光の鋭い男が階段を降りてきた。


「なんの騒ぎだぁ。この昼間っから。酒の飲みすぎはよくねぇぞお前らぁ」


 彼は、さっきまで昼寝をしていたようで、眠そうな声で言った。すると、酒場にいたすべての男が一斉に頭を下げた。


「「お疲れ様です……!!!!」」


 男は少年を視界にとらえると、彼の近くに飄々とした足取りで近づいた。

 

「なんだお前。ぼろぼろじゃねえか。こっぴどくやられたなぁ。」

「……そうか。いや、話さなくていい。」

「おい、てめぇら!!

 ……帰るぞ」

「「はい!!!!」」


 男は扉の前で振り返り、少年に言った。


「少年くんさぁ。お前の兄貴が言ってたぞ。俺には年の離れた自慢の弟がいるんだって。青い宝を見つけて世界をひっくり返すのはうちの弟なんだってな。」

「……」

「青い宝を見つけるんならな。俺とライバルってことだ。いずれまたどっかで会うかもな。まぁ……そんな床に寝っ転がってるようじゃあ、あり得ねえだろうけどな……ははは」


 青い宝。久しぶりに聞く言葉だった。兄が死んで10年が経とうとしていた。シーカーたちで活気づいていた世界は、すっかり変わってしまった。


 そこにはもう、誰一人として、夢を追う人はいない……はずだったのだ。


 

 

 



 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ