第38話 暖簾に腕押し
「弟子として頼ってくれるのはありがたいけれど、僕から提供できる情報は多くないぜ?」
「使えな」
「そこ!使えないとか言わない!」
俺は床に正座した状態で、目の前のエルフロリ少女を見上げている。
まさかこうして、カペラを見上げることになるとは思はなかった。ロリ美少女を見上げる……
うん。この眺めもまた悪くない。
「先ず今から話す情報は、僕がこの学園の生徒だったときの話だぜ。だから場所は変わらないものの、学園のあり方も仕組みもかなり違うのさ」
「そんなに違うんですか?」
「あぁ違うぜ。僕がこの学園に居た時はまだ戦時中だからね。生徒数も違うし、こんなに学園の敷地も広くなかったのさ」
戦時中……
言うのを忘れていたが、この世界は約20年ほど前まで魔族と帝国の戦争が相次いで起こっていたんだとか。
今は平和な世の中な訳だが、未だに魔族との確執は耐えない。
そんな時代背景があることを鑑みれば、カペラが学園にいた頃は実に20年以上前と言うことになる。
「僕が居た時は数年に一度しか入学試験はなかったし、合格者数も百人ほど。今よりも何倍も入学難易度が高い」
「えぇ、マジか……。カペラ先生、エリートじゃないですか」
「そうだぜ。見直したかい?」
「はい。けどそんな昔の話じゃ、全然参考にならないじゃないですか。やっぱり使えねえ。頼る人ミスったかな……」
「シャーラップ!いいから僕の話を聞け!」
★
「まさか本当にいるとは……」
僕はカペラが教えてくれた、隠れスポットに足を運んでいた。物質魔法技術棟、屋上。
学園内でもトップレベルで年季の入っている建物で、その古さ故の不気味さから、足を運ぶ生徒がほとんどいない。
ただカペラ曰く、この棟こそ昔から知る人ぞ知る隠れスポットとして有名で、落ち込んだり人に会いたくないときは、ここに来るのがベストなんだとか。
けどそれはカペラが学生だったときの話なわけで……
ただ可能性を否定できる訳もなくて……
まさかとは思ったが……
うん、本当に居た。
アルマが。
彼女は屋上の柵に捕まり、夕日を呆然と見つめている。
いや〜、カペラを頼って本当に良かった。
もはやカペラがすごいんじゃなくて、あの状況でカペラを頼ろうと決意した僕がすごい。
俺……ありがとう。
しかし……あれは誰だ?
アルマの隣……
そこに一人の少女の姿がある。
ショートヘアの白髪の少女。前髪には赤色のメッシュが見て取れる。
表情は柔らかく、優しい笑みをアルマに向けていた。
ん……なんだっけな……
どこかで見たような気も……
あっ! そうだ!
こいつもSクラスの奴だ!
いつも机に突っ伏して寝ているから、顔立ちを見ても上手く思い出せないでいた。
しかしなぜ、アルマとSクラスの奴がここに?
どんな目的で?どんな関係?
そうして疑問を巡らしている内に、白髪の少女が俺の存在に気付き体を向けた。
気配を消して隠れて覗いていたってのに……気付くのかよ。
これまた只者じゃないな。
しょうがないので堂々と、屋上へと踏み出すことにした。
2人の視線が正確に自分を捉える。
「アルマちゃ~ん。お迎えが来たみたいよ」
「べ、ベータ……」
アルマはまるで会いたくなかったとでも言いたげな表情で、俺を見つめてくる。
赤焼けの空が、俺らをまるで青春の1ページを思わせるような感慨深い空間へと誘った。
「じゃあ私は邪魔だろうから去るねぇ。アルマちゃん、しっかりとその口で告げないとダメだから」
白髪の少女はそれだけ言うと、俺の横を通り過ぎ出口へと向かう。
ただそのとき少女は俺の耳元で、口を開いた。
「仲間の手綱はしっかりと握っておこうねぇ、ベータ君」
「どういう意味だ?」
そう質問を返すも、少女は一切の反応を見せずその場から去ってしまった。
まさか俺の名前を知っているとはな。
あまり居心地の良いものでは無い。
自分たちのいる空間はたちまち、涼しい風に包まれる。
アルマと俺の2人だけがいる屋上。
ただその空間を引き裂くが如く、俺はゆっくりと言葉を発した。
「チェイ!」
「……!?」
「アルマ、なぜ魔術練習場に来ないんだ?ルイも待ってるぞ」
「……」
「こんな不完全な状態で試験に挑んだら、どれほどのリスクがあるか分かってるだろ?
「……」
「アルマだって試験に落ちたくないだろ?Fクラスから脱出するんじゃなかったのかよ?」
「……ごめん」
アルマはそう一言だけ口にし、屋上から逃げ出そうとする。
俺は咄嗟に反応し、アルマの腕を掴んだ。
後ろから掴んだこともあり、俺から彼女の姿は背中しか見えない。
「アルマ!」
そう声を張り上げると、彼女の肩がビクっと動く。
その小さな振動が、彼女の腕を通して伝わって来た。
「アルマ……何か言ってくれないか?俺らさ、同じチームの仲間だろ?何かあるなら遠慮なく言って欲しい」
「……あんたみたいな人間には分からんよ。うちの気持ちは」
アルマは無理やり腕を払うと、屋上から去っていってしまった。
あんたみたいな人間……
どういうことなんだ……どういう意味なんだ……
分からない。
分かれない。
あいつは何を……
そう思うも俺は何も出来ずにその場に佇んでいた。
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